子どもの頃から人とのコミュニケーションを図るのが困難で、悩み苦しんでいた吉野さん。統合失調症と診断されてからは、入院や薬物治療、仲間との活動などにより、自らの病気を見つめ、回復を目指して前向きに頑張っています。
思考や感情などの精神機能のネットワークがうまく機能せず、幻覚や妄想など多様な症状を示す精神疾患、それが統合失調症です。吉野さんは、幼い頃から会話がとても苦手で、家族とも友達ともうまくコミュニケーションをとることができず、次第に幻聴や妄想に悩むようになっていったといいます。
「言いたいことがあるのに、言葉にできない。『そんなことを言うと嫌われるぞ』と誰かに言われている気がして、親にさえ自分の悩みや苦しみを訴えることができなかったんです」
『こんなふうに話せたら』という想いから、テレビのアナウンサーに同化したいと必死で考えているうちに、逆に相手からすべて見透かされていると感じるようになってしまったという吉野さん。
「気づいたら、世界中の人に自分の頭の中をサトラレていると、パニック状態に。今考えると、自分が誰かに何かを伝えたいと願いすぎて、自らサトラセになっていたのかも」

状態の悪化を見かねたご両親が、吉野さんを医師のもとへ連れていったのは、彼女が17歳の時。
「統合失調症と診断されたときには、『そうですよね、病気ですよね!』と逆にホッとしました。あぁ、やっと理解してもらえた、と」
そこから吉野さんの闘病生活が始まりました。家族や病院の担当スタッフも、彼女の回復のため、薬を与え、刺激を避けて囲いこむように守ってくれる日々。しかし、そのためにかえって彼女は孤独に悩まされます
「自分で考えることもなく、クルマでいうなら助手席に座っているだけで、自分の人生を自分で運転していない。マイナス思考で自分へのダメ出しを繰り返していました」
そんな彼女を変えたのは、精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点「べてる」との出合い。
「たまたま『べてる』の人たちの講演を聞いて、『この人、私と同じなのに、こんなに元気に話をしてる!』ってびっくりして。ここなら私も前向きになれるかも、と周囲を説得して参加したんです。これが本当に大きな転機でした」

『べてる』に参加することで、すべて周囲任せだった生活から一人暮らしへと大きく環境が変わり、「最初は牛乳1本買うのもうれしかった」という吉野さん。しかし、その後、恋愛や仕事など、それまでに経験してこなかった苦労が雪崩のように押し寄せます。
「それで状態がひどく悪化してしまい、回復を拒否する気持ちになって、薬をどうしても飲めなくなってしまいました。けれど、そこでお医者さんに相談したところ、筋肉注射による投薬を提案されたんですね。以前に受けた筋肉注射がとても痛かったので最初は不安だったんですが、今回は『え、もう済んだの?』っていうくらい痛みがなかった。しかも処方量も的確で、自分の体を取り戻したような感覚になれたんですよ」
拒否することなく筋肉注射を受けたことで、生きている実感を体感することができたと吉野さん。「『痛くない筋肉注射を開発してくれてありがとう!』って感じ」と、笑顔を見せてくれました。

医師やスタッフに相談することで、薬の大切さに気づき、前向きに治療に取り組めるようになったという吉野さん。
「自分に合う薬を自分で飲む。自分で考えて選ぶ治療に変わりましたね。でも、大切なのは薬だけじゃありません。『べてる』に行くことで、仲間と出合い、やっと自分の想いを言葉にできるようになったことも、とても大きかった。ずっと『自分には回復する価値なんてない』と決めつけていたのが、仲間を得ることで、自分を大切にしたいと思えるようになったんです。薬だけでも仲間だけでもダメだったと思います」
だからこそ、同じ病気で苦しんでいる人がいるなら、ぜひ仲間を見つけてほしいと吉野さんは言います。
「私もまだまだ完全に回復したわけではないけれど、今は自分の人生というクルマを自分で運転していると実感しています。治療の一方で、昆布製品づくりの仕事をしたり、昔習っていたピアノにもう一度トライして音楽を楽しんだり。今の夢は、“サトラセ歌手”になること(笑)。家族や仲間、同じ病気に悩む人たちへの想いを歌で表現して、みんなにサトラセたいな、と思います!」

ハキハキと自らの体験を語る吉野さんの姿は、人と会話できなかったという言葉が信じられないほど。前向きに生きる強さと明るさが、きっと周囲の人たちにも元気や勇気を与えていることでしょう。
べてるの家
1984年に設立された北海道浦河町にある、精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点です。
社会福祉法人浦河べてるの家、有限会社福祉ショップべてるなどの活動があり、総体として「べてる」と呼ばれています。
そこで暮らす当事者達にとっては、生活共同体、働く場としての共同体、ケアの共同体という3つの性格を有しており、100名以上の当事者が地域で暮らしています。
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