AORNジャーナル10月号(2015)

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*2013年1月号より、AORNジャーナルオリジナル版の様式が変更になり、月1回の更新となります。

非心臓外科手術を受ける患者に対するアスピリン

エビデンス評価スコア IA

(Devereaux PJ, Mrkobrada M, Sessler DI, et al. N Engl J med. 2014; 370(16):1494-1503.)

エディターズノート

研究論文を読み、有効な研究の成果を業務に取り入れることは、科学的根拠に基づく周術期看護を確保する上できわめて重要な点です。ジョンズホプキンス科学的根拠に基づく医療モデルおよびガイドライン(Johns Hopkins Evidence-Based Practice Model and Guidelines)から許可を受けて引用改変したAORN研究エビデンス評価ツール「AORN Research Evidence Appraisal Tool」は、周術期看護師が研究を評価するのに有用なツールです。この評価ツールは、AORNが推奨する看護業務の根拠となるエビデンスを評価するために使用することができます。この評価ツールは単一の研究および複数の研究の要約のいずれについても、エビデンスのレベルおよびエビデンスの質を評価するのに使用することができます。本稿では、本評価ツールのうち評価した表題の研究に関連するセクションのみを使用した簡略版ツールを採用しています。本評価ツールのセクションごとに、この研究に対して何故その評価スコアが付されたのか、またそのスコアが周術期看護業務にどのような意味をもつのかを明確に理解できるよう論じています。個々の研究の知見がある特定の状況において価値があり関連性があるかどうか判断する場合には臨床的判断を使用すべきです。この研究の知見を看護業務に取り入れようとする場合には、その原著論文をレビューして個々の看護の状況への適用可能性を判断することが推奨されます。

 予防目的および治療目的でのアスピリン(すなわちアセチルサルチル酸[ASA])投与は、心臓発作および脳梗塞の素因を有する人においてこれらの症状が発現するのを予防するために広く処方されている。低用量ASAの使用に便益があることを強く示唆する研究が多数発表されている。周術期の臨床では、この抗血小板薬が外科患者において望ましくない出血をまねくことが懸念されるため、手術前のASAの使用は賛否が分かれているが、ASAは、手術後の心筋梗塞または冠状動脈血栓形成を予防すると考えられている。さらに、ASAは周術期の臨床では血管内で血栓が形成されるのを防止する役割も果たす。ASAを日常的に服用していない患者と長期にわたりASA治療を受けている患者とでは、手術前に服用されるASAの量の取扱いにかなりのばらつきがある。そのため、この大規模な国際的研究の研究者らは、心臓以外の手術を受ける患者におけるASAのリスクと便益を特定するプロジェクトを考案した。「The 2014 Perioperative Ischemic Evaluation 2, aspirin arm (POISE2)」と呼ばれるこの大規模な研究は、この問題について研究したこれまでで最大の臨床試験である。この研究は、非心臓外科手術の患者における主要な心臓合併症に重点を置いている(http://www.acc.org/latest-in-cardiology/articles/2014/03/28/16/44/poise-2-trials-aspirin-and-clonidine-impacts-major-arterial-events-in-noncardiac-surgery-patients#sthash.KZDYC8jy.dpuf参照)研究者らは、この研究がカナダ保健研究所、オーストラリア保健医療研究評議会、スペイン保健社会政策省の助成を受けたと報告している。使用されたASAはバイエル・ファルマが提供した。提供者または資金助成者は、研究のデザインまたは実施に関与しなかった。

エビデンスレベル:研究

 これが単一の研究の報告であることから、この研究の評価には「AORN研究エビデンス評価ツール」の「エビデンスレベル:研究」を用いた。

AORN Research Evidence Appraisal Tool(AORN研究エビデンス評価ツール)

実施場所:

 POISE-2試験は、2×2要因デザインによる国際的無作為比較試験である。これは、23カ国135施設の病院で実施された。

サンプルサイズおよび構成:

 非心臓外科手術中に有害な心臓イベントが発現するリスクを有すると思われる合計10,010例の患者が、2010年7月から2013年12月にかけて試験に組み入れられた。組み入れられた被験者のうち4,998例がASA投与に割付けられ、5,012例がプラセボ投与(すなわち対照群)に割付けられた。患者の平均年齢は68.6歳、男性の割合は52.8%であった。包含基準は、冠状動脈または末梢血管の疾患の既往に加えて、年齢が70歳以上、糖尿病、喫煙、高血圧または脳卒中などの危険因子が3つ以上存在することとされている。除外基準は、手術前6週間以内のベアメタル冠状動脈ステントの挿入、または手術前1年以内の薬剤溶出冠状動脈ステントの挿入とされた。倫理承認と同意は、試験を開始する前に関係者全員から得られている。

介入:

 介入は、ASAかプラセボのいずれかで行われた。患者は、試験前に日常的にASAを服用していなかった(すなわち開始層)か、手術の6週間以内に少なくとも1カ月毎日ASAを服用していた(すなわち継続層)かのいずれかに応じて階層化された。継続層の被験者は、手術の少なくとも3日前にASAの服用を止めるように指示され、手術から7日後まで再開されなかった。患者は手術直前にASA(用量200㎎まで)かプラセボのいずれかの服用を開始し、開始層では1日あたり100㎎のASAを30日間、継続層では7日間服用を継続し、その後、患者はそれぞれの通常のASA投与法を再開した。

対照群:

 この試験では、試験中対照群の5,012例の患者にプラセボが投与された。介入群と対照群の間のベースライン時の特性はすべての点で同等であった。

無作為割付:

 患者は、試験参加施設とASA層にしたがって層化されたブロック無作為化を使用する24時間オンラインのシステムを使って無作為割付けされた。

エビデンスレベル:

 この研究が、無作為化比較研究であることから、この研究は「AORN研究エビデンス評価ツール」の「I」とした。

エビデンスの質:研究

 これが、単一の研究の報告であることから、この研究の評価には「AORN研究エビデンス評価ツール」の「エビデンスの質:研究」を用いた。

既存の情報:

 著者らは既存の情報を提示し、研究の設問について知られていることと、知られていないことを特定し、手術におけるASAの使用に関する相反する情報を示している。心筋梗塞は、非心臓外科手術後の主要な合併症である。これを避けるために周術期ASAを投与するのが一般的である。このリスクを最小限にすることが不可欠であり、これらの外科患者に対しては抗凝固療法が重要である。長年にわたって、ASAの影響と出血について多くの研究が行われている。たとえば、ASAが血小板の凝集を阻害することが知られている。股関節部骨折の修復術を受けた患者を対象として実施されたある大規模な研究(すなわち2000年に発表された肺塞栓症防止[PEP]治験)によって、ASAの投与によって出血率は上昇するが、静脈血栓塞栓症のリスクは低下すること、心筋梗塞のリスクがわずかながら上昇することなどが実証されている。これらの結果は、周術期ASAの役割について混乱を招くこととなった。他の研究では、低用量ASAが高用量ASAと同じくらい効果的であることが報告されている。

研究の目的:

 この研究の目的は、非心臓外科手術を受けた患者における死亡または非致死的心筋梗塞への影響を低用量ASAとプラセボで比較し、評価することにあった。

文献レビュー:

 この大規模研究は、参考文献を付録に列挙しているが、この付録は添付されておらず、したがって、この評価では確認できなかった。このような大規模な国際的な研究では関連性の高い文献がもれなくレビューされていると想定された。

サンプルサイズ:

 サンプルサイズは、十分であると考えられる。研究者らは、10,000例の被験者によって、84%検出力でASA群における有意性を検出できると想定した。研究者らは、プラセボ群の転帰は6.1%であると仮定し、両側検定のαレベルを0.05とした。

対照群:

 組み入れられた被験者のうち4,998例はASA投与に割付けられ、5,012例がプラセボ(すなわち対照群)に割付けられた。ベースライン時の特性は、両群の被験者間でほぼ同じであった。

データ収集:

 倫理承認と書面でのインフォームド・コンセントを得た後、被験者は試験に組み入れられ、層、介入群、対照群に無作為割付けられた。臨床データ収集者には、試験群の割付けの情報は開示されなかった。実際のデータ収集手順に関する詳細は、この論文では報告されていない。

評価ツールの妥当性および信頼性:

 評価ツールは使用されなかった。

回答率:

 この研究では、調査票や質問票は使用されなかった。

結果:

 研究者らは、想定されるサブグループの結果について、P< .05とした相互作用の検定を組み入れたコックス比例ハザードモデルを含む事前に設定しておいた解析を使用した。統計分析は、SASソフトウェア Ver. 9.1(SAS Institute Inc, Cary, NC)で行われた。結果は以下の通りであった。

  • 死亡または非致死的心筋梗塞の主要転帰は、ASA群4,998例のうち351例(7.0%)、プラセボ群5,012例のうち355例(7.1%)で見られた。
  • ASAの使用が心筋梗塞の転帰に及ぼす影響は有意ではなかった(ASA群は6.2%、プラセボ群は6.3%)。
  • ASA群の患者は、プラセボ群(3.8%)と比べ大出血のリスクの上昇が見られた(4.6%)。
  • 出血が最も頻繁に見られた部位は手術部位(78.3%)と消化管(9.3%)であった。ASA群では16例の患者に脳卒中(0.3%)が見られたのに対し、プラセボ群では19例の患者に脳卒中(0.4%)が見られた。
  • 集中治療室または心臓治療室での滞在時間は、両群間で有意でなかった(P=.23)。
  • すべてのサブグループ相互作用を通じて、ASAの影響は一貫していた(すべての相互作用についてP≥.16)。

結果に基づく結論:

 研究者らは、ASA使用によって大出血のリスクが有意に高まったが、開始層では脳卒中のリスクが低下した(P=.03)と結論づけている。継続層では、ASAにより透析を必要とする急性腎臓障害のリスクの有意な上昇が見られた(P=.04)。さらに研究者らは、プラセボと比べて低用量のASAの使用による死亡または非致死的心筋梗塞の低下は見られなかったと結論づけている。研究者らは、長期にASAが投与されている患者の場合、ASA投与再開に最も効果的な時期は手術後8から10日であり、この時期に投与を再開することによって出血リスクが相当程度軽減されると結論づけている。

研究の制約:

 研究者らは、手術前にASA投与を中止した実際の時間にしたがって患者を無作為割付けていないことから、出血リスクを最小限にするのに最適なASA停止時期を決定することができないと指摘している。この研究が心筋梗塞を防止する便益を検出するのに十分な検出力を有していない可能性があることも指摘されている。

エビデンスの質:

 「AORN研究エビデンス評価ツール」を用いて、この研究は、エビデンスの質「A」とした。

評価結果:

 「AORN研究エビデンス評価ツール」を用いて、この研究のスコアはIAとした。

  • この研究のエビデンスレベルのスコアはIとした。これは、この研究が無作為化比較試験であり、したがって実験的であったからである。
  • この研究のエビエンスの質のスコアはAとした。これは、研究が一般化可能であり、十分なサンプルサイズを有し、適切に対照群が設定され、確定的な結論を提示しているからである。
  • IAというスコアは、この研究が利用できる最高の研究エビデンスに相当し、周術期看護師がこのエビデンスを実務における指針とみなすことが適切であることを意味している。

周術期に対する示唆

 周術期看護師は、手術前にASAを服用している患者の出血リスクが高いことを認識しておくべきである。凝固と血小板の問題をさらに大きくするおそれがあることから、市販薬、ハーブを含めた薬剤の完全な投与歴を収集すべきである。また、服用している薬剤によることが疑われる影響が見られた場合は、はっきりと記録し、他の外科チーム全員に周知しなければならない。手術前に患者が自身の薬剤の日常の服用に関してよく分からない場合は、薬剤の服用について家族またはその他の関係する人に問い合わせるべきである。この研究は、術後ケアに、過度な出血の有無を確認する外科創傷部位の注意深い評価と、指示された抗凝固薬の注意深い配布および評価を常に組み入れるべきであることを実証している。
ここで報告した研究は、当該研究のASA知見の一部を要約しているにすぎない。この研究のように非常に大規模な研究を評価し、要約するには、論文の印刷版を詳細に精査することが必要であるが、読者自身が文献検索を合わせて行い、この研究から派生した他の論文の内容も確認すべきである。国際的POISE-2試験のもう一つの部分は、クロニジンの研究を含んでいる。詳しい情報は、次のURLから閲覧することができる。

http://www.smoweb.org/Articoli%20Professione/Protocollo%20POISE%202.pdf

および
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1401105#t?articleTop

 本論文の評価は、ナース・コラボレーションズ(テキサス州ベルネ)のコンサルタント兼オーナーであるNancy Girard(PhD、RN、FAAN)が行った。Dr. Girardからは、本論文発表で利益相反の可能性が生じると認識される恐れのある関係は表明されていない。

監修(注釈): 社団法人日本看護協会 洪 愛子
訳: ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
メディカル カンパニー コミュニケーション部

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