AORNジャーナル11月号(2015)

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*2013年1月号より、AORNジャーナルオリジナル版の様式が変更になり、月1回の更新となります。

大動脈弁置換術時における吸引カテーテルチップの細菌汚染:前向き観察コホート研究

エビデンス評価スコア IIIC

(Larsson J, Sutherland S, Söderström Å, et al.; Patient Saf Surg. 2015:9(17):eCollection.)

エディターズノート

研究論文を読み、有効な研究の成果を業務に取り入れることは、科学的根拠に基づく周術期看護を確保する上できわめて重要な点です。ジョンズホプキンス科学的根拠に基づく医療モデルおよびガイドライン(Johns Hopkins Evidence-Based Practice Model and Guidelines)から許可を受けて引用改変したAORN研究エビデンス評価ツール「AORN Research Evidence Appraisal Tool」は、周術期看護師が研究を評価するのに有用なツールです。この評価ツールは、AORNが推奨する看護業務の根拠となるエビデンスを評価するために使用することができます。この評価ツールは単一の研究および複数の研究の要約のいずれについても、エビデンスのレベルおよびエビデンスの質を評価するのに使用することができます。本稿では、本評価ツールのうち評価した表題の研究に関連するセクションのみを使用した簡略版ツールを採用しています。本評価ツールのセクションごとに、この研究に対して何故その評価スコアが付されたのか、またそのスコアが周術期看護業務にどのような意味をもつのかを明確に理解できるよう論じています。個々の研究の知見がある特定の状況において価値があり関連性があるかどうか判断する場合には臨床的判断を使用すべきです。この研究の知見を看護業務に取り入れようとする場合には、その原著論文をレビューして個々の看護の状況への適用可能性を判断することが推奨されます。

 術後のSSI(手術部位感染、surgical site infection: SSIと略)を発症した患者は、入院期間が長引き、長期の抗生剤投与を必要とし、結果として、医療費の負担が増える。これまでの研究から、SSIの原因となる細菌は、手術室の機器に由来することが知られている。吸引用器具は、手術野から余分な血液および体液を除去するために手術室でのほとんどの手術で使用される標準的な器具である。吸引用器具は患者の腹部の一方の側に取り付けられたプラスチック・ケースに保管されるのが一般的であるが、手術野で使用していない場合でも、吸引チップからは空気を吸引し続けている。整形外科手術時に行われた過去の研究は、吸引カテーテルのチップが細菌によって汚染されていることが一般に見られることを報告している。この研究では、心臓手術における汚染率が報告されていないことから、大動脈弁置換術における吸引カテーテルの汚染率を記述し、吸引時間が汚染のリスクに影響を及ぼすかどうか評価することを目的として実施された。

エビデンスレベル:研究

 これが非実験的、前向き観察コホート研究の報告であることから、この研究の評価には「AORN研究エビデンス評価ツール」の「エビデンスレベル:研究」を用いた。

AORN Research Evidence Appraisal Tool(AORN研究エビデンス評価ツール)

実施場所:

 この研究は、2014年3月から5月にかけてスウェーデン、ヨーテボリのサールグレンスカ大学病院心胸部外科で実施された。

サンプルサイズおよび構成:

 25例の大動脈弁置換術時に吸引用器具が回収された。手術ごとに2個の吸引カテーテルが回収され、合計で50個の吸引カテーテルが回収された。各吸引カテーテルチップの遠位3㎝が無菌の剪刃で切り取られ、無菌の容器に入れられ、汚染状況を分析するため、細菌検査部門に提出された。最初の吸引カテーテルは、大動脈切開部位の閉鎖までと閉鎖時に使用された。2番目の吸引カテーテルは、大動脈切開部位閉鎖後から手術終了時まで使用された。この研究は、外科設備しか必要とせず、患者の識別データは収集しなかったため、施設内倫理委員会から審査免除を受けた。

介入:

 この研究では介入は使用されなかった。

対照群:

 5つの未使用の吸引カテーテルチップが、微生物学的分析の対照として使用された。

無作為割付:

 この研究では無作為割付は行われなかった。

エビデンスレベル:

 この研究が非実験的、前向き観察コホート研究の報告であることから、この研究は「AORN研究エビデンス評価ツール」の「レベルIII」とした。

エビデンスの質:研究

 これが、単一の研究の報告であることから、この研究の評価には「AORN研究エビデンス評価ツール」の「エビデンスの質:研究」を用いた。

既存の情報:

 研究者は、明確に既存の情報をまとめている。開胸手術時、外科医は心臓にアクセスするために胸骨切開を行い、切開された胸骨は、ステンレススチールワイヤーを用いて閉じられる。このワイヤはインプラントと見なすことができ、異物に関連した感染症を引き起こす可能性がある。縦隔炎は、外科患者の死亡リスクを高める胸部の深部感染症である。胸骨切開創における細菌コロニー形成は、患者、手術室にいる人、外科手技時に用いられる設備のいずれかによって引き起こされると考えられる。整形外科手術時における過去の研究から、吸引カテーテルチップの汚染率が11%から65%であることが知られている。過去の研究から、吸引時間が細菌の汚染に関連していることが報告されたことが明らかになっている。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が、吸引カテーテルから検出される最も一般的な細菌であり、この細菌は、縦隔炎を生じさせる最も一般的な細菌の1つである。

研究の目的:

 この研究の目的は、明確に述べられている。すなわち、この研究は、大動脈弁置換術における吸引カテーテルチップの汚染率を記述し、吸引時間が汚染のリスクに影響を及ぼすかどうか評価することである。

文献レビュー:

 こ文献レビューは広範囲ではなく、また、最新のものでもなかった。挙げられている18件の文献のうち、過去5年間に発表された文献は2件(11%)のみであった。1つの文献は、外科の教科書であった。

サンプルサイズ:

 25例の大動脈弁置換術時に回収された吸引カテーテルチップ50個というサンプルサイズは、研究デザインに十分なように見える。しかし、著者らは、観察数が少ないと指摘している。

対照群:

 5本の未使用の対照吸引カテーテルが分析に含まれた。対照吸引カテーテルは、マニュアルにしたがって、吸引用器具に接続された。これらのカテーテルは使用済みのカテーテルチップと同じ要領で、ただし、手術が開始される前に切り離された。吸引カテーテルチップの入った容器は、汚染状況を分析するために提出されるまで、施設の標準的なプロトコルに従って保存された。

データ収集:

 研究者らは、データ収集方法を明確に記載している。各々の吸引カテーテルチップの遠位3㎝が無菌の剪刃で切り落とされ、無菌の容器に入れられた。25例の大動脈弁置換術それぞれから2個ずつ吸引カテーテルが回収された。1つは大動脈切開部が閉鎖された後に回収され、もう1つは手術終了時に回収された。カテーテルチップは、好気培養と嫌気培養のウマ血液寒天、ドリガルスキー寒天とGrand Luxプレート(すなわち細菌の培養に使用される栄養培地)の上で回転させられた。血液寒天とGrand Luxプレートは、4日間35℃(95℉)の二酸化炭素(CO2)で培養された。次にチップは、チオグリコレート培地の入った試験管に入れられ、35℃(95℉)で2日間培養された。次にそのブイヨンは、好気培養ウマ血液寒天と嫌気培養ウマ血液寒天に継代培養され、2日間、35C℃(95℉)のCO2で培養された。細菌汚染は、以下のコロニー形成単位(CFU)数と集積培養後にもとづく4つのカテゴリーにしたがって評価された。

  • 豊富:100CFUを超える
  • 中等度:10CFU〜100CFU
  • まばら:10CFU未満
  • 集積培養後

 細菌の分離株は、標準的な微生物学的手技によって特定された。

評価ツールの妥当性および信頼性:

 この研究では、評価ツールは使用されなかった。

回答率:

 回答率は当てはまらない。

結果:

 結果は明確に提示されている。対照吸引カテーテルチップはいずれも汚染されていないことが確認された。研究した25例のうち20例(80%)の手術において、一方または両方のカテーテルチップに細菌汚染が確認された。25例のうち5例(20%)で、最初のカテーテルチップと2番目のカテーテルチップの両方が汚染されていた。手術の前半(すなわち、大動脈切開部を閉じるまで)の所要時間の中央値は103分(範囲、60分から138分)であり、その間に、25例中13例(52%)で、カテーテルチップに汚染が見られた。手術の後半(すなわち、大動脈切開部を閉じた後)の所要時間の中央値は74分(範囲、50〜187分)であり、その間に、25例中12例(48%)で、カテーテルチップに汚染が見られた。2つの期間の間に汚染率の有意差は見られなかった(P=0.32)。最も多く検出された微生物は、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌であり、手術前半では8例の手術から、手術後半では、10例の手術からこの細菌が分離された。

結果に基づく結論:

 研究者らは、80%の手術で、吸引カテーテルチップの一方または両方で細菌汚染が確認され、手術中にも、手術終了時にも汚染が確認されたと報告している。研究者らは、吸引時間が吸引カテーテルチップの汚染の予測因子であるという仮説を裏付けるエビデンスを得られなかったと報告している。研究者らは、吸引カテーテルチップが手術創の細菌汚染源となりうるとみなすべきであると結論づけ、吸引カテーテルを手術中、そして胸骨を閉じるときなどのクリティカルな時点で取り換えることを提案している。研究者らは、吸引カテーテルチップを取り換えるほうが、所要時間とカテーテルチップのコストの点で経済的であると指摘している。

研究の制約:

 研究者らは、この研究の制約をいくつか挙げている。この研究は、観察数が少なく、1つの医療機関での研究であった。さらに、手術時間が均質であったことで、吸引時間が汚染頻度に及ぼす影響の分析が制約された。

エビデンスの質:

 「AORN研究エビデンス評価ツール」を用いて、この研究は、エビデンスの質「C」とした。これは、この研究が単一の施設での研究であり、サンプルの数が少なく、また手術時間が均一であったからである。さらに、文献レビューは広範囲にわたっておらず、また最新のものでもなかった。また、カテーテルチップの汚染に関しては過去の研究とほぼ同じ研究結果であったが、異なる手術時間のあいだで細菌の汚染に差が見られなかったため、結果に一貫性が見られなかった。

評価結果:

 「AORN研究エビデンス評価ツール」を用いて、この研究のスコアはIII Cとした。

  • この研究のエビデンスレベルのスコアはIIIとした。これは、この研究が非実験的、前向きの観察コホート研究であり、独立変数が設定されていなかったためである。
  • この研究のエビエンスの質のスコアはCとした。これは、サンプル数が少なく、文献レビューが広範囲にわたるものではなく、また最新の文献が挙げられていなかったからである。また、結果は他の研究との一貫性を欠いていた。
  • III Cというスコアは、周術期看護師が周術期プロセスの方針と手順をデザインする際、このエビデンスを一次的エビデンス源として使用するのが適切でない可能性があることを示している。強さ又は質が低いからといってその研究がエビデンス源として必ずしも劣っている、あるいは許容できないというわけではない。また、評価が低いからといって必ずしも、エビデンスが重要でない、あるいは関連性がないことを意味しない。この研究は、今後の研究の基礎として使用することができる。

周術期に対する示唆

 この研究の結果は、吸引カテーテルチップが、細菌による手術創汚染の発生源となりうることを明らかにしている。大動脈弁置換術中および術後に回収したカテーテルチップの総汚染率は80%であった。しかし、研究者らは細菌汚染と吸引時間の間に関連性は見出されなかったとしている。研究者らは、胸骨を閉じる時など重大な局面で、吸引カテーテルチップを取り換えることを提案している。周術期看護師は、頻繁な吸引カテーテルチップの交換がカテーテルチップ汚染に関連したSSIのリスクを低減する効果的戦略であるかどうか決定するための大規模な無作為化試験をデザインし参加する用意がされるべきである。

 本論文の評価は、ニューヨーク・メソジスト・ホスピタル感染予防部長、SUNY医療関連職カレッジ(ニューヨーク州ブルックリン)臨床准教授であるGeorge Allen(PhD、MS、BSN、RN、CNOR、CIC)が行った。Dr. Allen からは、本論文発表で利益相反の可能性が生じると認識される恐れのある関係は表明されていない。

監修(注釈): 社団法人日本看護協会 洪 愛子
訳: ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
メディカル カンパニー コミュニケーション部

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