AORNジャーナル12月号(2015)

ご注意ください

Copyright Elsevier Inc., Philadelphia, PA, USA. It is permitted to print and download a single, personal copy of the article (Licensed Product). Reproduction, redistribution, or modification of the Licensed Product is prohibited without the express written permission of Elsevier Inc. Elsevier Inc. assumes no responsibility for translation accuracy or content of Japanese version, which is translated and provided by Johnson & Johnson K.K.
(本記事の著作権はElsevier Inc.にあり、印刷やダウンロードは私的利用目的で1回のみ許可されています。記事の無断複製・転載・修正を禁止します。日本語翻訳・監修(注釈)はジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社によるもので、その内容についてElsevier Inc.は一切の責任を負いません。)

*2013年1月号より、AORNジャーナルオリジナル版の様式が変更になり、月1回の更新となります。

高齢者の膝置換術周術期における脳酸素代謝および認知機能回復に対する輸血および輸液加温の影響

エビデンス評価スコア IB

(Wei C, Yu Y, Chen Y, Wei Y, Ni X.;J Orthop Surg Res. 2014;9:8.)

エディターズノート

 研究論文を読み、有効な研究の成果を業務に取り入れることは、科学的根拠に基づく周術期看護を確保する上できわめて重要な点です。ジョンズホプキンス科学的根拠に基づく医療モデルおよびガイドライン(Johns Hopkins Evidence-Based Practice Model and Guidelines)から許可を受けて引用改変したAORN研究エビデンス評価ツール「AORN Research Evidence Appraisal Tool」は、周術期看護師が研究を評価するのに有用なツールです。この評価ツールは、AORNが推奨する看護業務の根拠となるエビデンスを評価するために使用することができます。この評価ツールは単一の研究および複数の研究の要約のいずれについても、エビデンスのレベルおよびエビデンスの質を評価するのに使用することができます。本稿では、本評価ツールのうち評価した表題の研究に関連するセクションのみを使用した簡略版ツールを採用しています。本評価ツールのセクションごとに、この研究に対して何故その評価スコアが付されたのか、またそのスコアが周術期看護業務にどのような意味をもつのかを明確に理解できるよう論じています。個々の研究の知見がある特定の状況において価値があり関連性があるかどうか判断する場合には臨床的判断を使用すべきです。この研究の知見を看護業務に取り入れようとする場合には、その原著論文をレビューして個々の看護の状況への適用可能性を判断することが推奨されます。

 外科患者の低体温はここ数十年間、非常に精力的に研究されてきた。これまでの研究から、低体温が低カリウム血症、不整脈、術後の感染率の上昇、血液凝固の変化などさまざまな生理学的事象の原因となりうることが明らかになっている。また、手術と麻酔薬の投与が認知機能に影響を及ぼすこと、特に高齢患者においてそれが顕著であることも知られている。低体温は、術後認知障害の発現に関係している可能性がある一方で、低体温が脳の保護に沿う作用を有していることから、脳について考える際、低体温の危険に矛盾が存在することは興味深い。低体温になることで脳酸素代謝のバランスが維持され、それによって脳の損傷を防止することが期待される。これらの矛盾に直面して、この研究の研究者らは、術中加温輸血(warmed blood infusions:WBI)が高齢の外科患者の周術期脳酸素代謝、したがって術後認知機能回復に影響を及ぼすかどうかを研究した。

エビデンスレベル:研究

 これが単一の研究の報告であることから、この研究の評価には「AORN研究エビデンス評価ツール」の「エビデンスレベル:研究」を用いた。

AORN Research Evidence Appraisal Tool(AORN研究エビデンス評価ツール)

実施場所:

 この研究は、中国銀川市の寧夏医科大学付属総合病院骨科で行われた。

サンプルサイズおよび構成:

 2012年3月から2013年2月までの間に1回人工膝関節全置換術を受けた60歳から75歳までの80人の男性と女性が研究に組み入れられた。除外基準は、脳血管疾患の既往、血栓イベントのエピソード、凝固障害、膝の感染症とそれにともなう全身性感染症の合併、7年未満の就学、重症の視覚または聴覚障害、認知機能テストに協力して最後まで終えることができなかった場合、であった。

 この研究は、ヘルシンキ宣言に従って実施されている。この研究は寧夏医科大学付属総合病院の倫理委員会の承認を得て実施されている。書面でのインフォームドコンセントがすべての参加者から得られている。

介入:

 介入は、輸血・輸液加温装置を使用することによる輸血および輸液の37℃(98.6℉)への加温である。

対照群:

 対照群において、患者は、直接注入まで15分から20分間室温(24℃[75.2℉])で保管されていた輸血および輸液を、加温処理することなく投与された。

無作為割付:

 患者は、WBI群(n=40)と対照群(n=40)に無作為に割り付けられた。

エビデンスレベル:

 この研究が、無作為化比較試験であることから、この研究は「AORN研究エビデンス評価ツール」の「I」とした。

エビデンスの質:研究

 これが、単一の研究の報告であることから、この研究の評価には「AORN研究エビデンス評価ツール」の「エビデンスの質:研究」を用いた。

既存の情報:

 研究者らは、明確に既存の情報を解説している。術後認知機能障害(Postoperative cognitive dysfunction:POCD)は、高齢患者においてよく見られる合併症である。また、低体温によって手術後に合併症が起きることが知られていることから、低体温がPOCDに寄与している可能性もある。手術室での低体温については、数多くの寄与因子が特定されており、その中で、この研究の研究者らは輸血が危険因子となりうるという思いを抱いた。また、研究者らは、低体温が膝置換術を受けた高齢患者において多く見られる点にも着目している。たとえば、ある研究は、周囲温度の輸液または1単位あたり4℃(39.2℉)で冷蔵保存された血液1,000mLを投与すると、成人の体幹温度が0.25℃(0.45℉)低下したと報告している。低体温を防止するため、血液を含めて輸液を手術室で温めたうえで投与するのが一般的である。

 しかし、研究の中には、低体温の危険について矛盾する知見を報告しているものがある。僧帽弁置換術を受けた患者を対象とする研究において、軽度の低体温(30℃[86℉])と中程度の低体温(26℃[78.8℉])のいずれにおいても脳の酸素代謝バランスを維持することができ、これにより脳を保護することができることが報告された。低体温の危険性についてのこれらの相矛盾する知見とPOCDを考慮して、この研究の研究者らは、WBIが体温調節に影響を及ぼすかどうかを評価し、「WBIが低温脳保護の概念に反するかどうか、WBIが患者の神経精神医学的回復に対し有害な影響を及ぼすかかどうか」を確認したいと考えた。

研究の目的:

 この研究の目的は、明確に述べられている。すなわち、この研究は、「周術期の脳酸素代謝と術後認知機能の回復に対する輸血と輸液の温度の影響を観察すること」を目的としている。

文献レビュー:

 この研究報告は、さまざまな学術雑誌、さまざまな国から23件の文献を挙げている。2つの記事が看護雑誌からのものであり、そのうちの1つがAORN Journalであったことは興味深い。看護の論文が無作為化比較試験の参考文献に挙げられるのを見つけることはまれである。引用された論文のほとんどは5年以上前のものであるが、それらは研究の内容をカバーしていた。

サンプルサイズ:

 サンプルサイズは、研究者らは検討していない。治療群の患者は40人であり、対照群の患者は40人であった。研究デザインと論理的根拠から考えて、サンプルサイズは十分であるという印象を受けた。

対照群:

 投与された輸血と輸液の温度が室温であったことを除いて、対照群の患者は、あらゆる点で介入群の患者と同等であった。2つの群の間で、年齢、性別、身長、体重、手術時間、抜管時間、ターニケットによる駆血時間、出血量、輸血量、PQRS(Post-operative Quality Recovery Scale:術後回復スケール)での術前ベースライン測定値に有意差はなかった。すべての患者は硬膜外麻酔と全身麻酔を受け、手術前と手術中、同じ薬剤投与レジメンを与えられ、同じモニタリングプロトコールを受け、手術中、下肢駆血ターニケットが使用された。すべての患者を同じ外科医と麻酔医が担当した。

データ収集:

 研究者らは、明確にデータ収集の方法を解説している。術中の体温は、鼻咽頭温度プローブによって次の5つの時点でモニターされた。すなわち術前(T0)には側頭部で、麻酔後から輸血までの期間(T1)、輸血直後(T2)、輸血から30分後(T3)、輸血から1時間後(T4)、輸血から2時間後(T5)である。中大脳動脈の血流は、手術前に側頭または眼周囲皮膚を通じて両側中大脳動脈を測定することによってモニターされた。麻酔後、患者は仰臥位に置かれ、内頸静脈穿刺が実施された。5Fのバイキャビティ深部静脈カテーテルが挿入され、カテーテルの先端が外耳と等しい位置に留置された。カテーテルはヘパリン食塩水で密封され、T0からT5の時点まで橈骨動脈と頸静脈球から血液が同時に採取され、血液ガス分析に付された。手術は、予定通りに進行した。

 患者の認知機能はPQRSによって測定された。患者は、手術前、抜管の15分後と40分後、手術の1日後と3日後にテストされた。PQRSツールは、生理的機能、侵害刺激、感情、日常生活動作および認知機能回復という5つの指標を使用する。術後のスコアが術前のスコア以上であれば、患者は完全に回復したとみなされる。術後のスコアがベースライン以下にあれば、患者は完全には回復していないとみなされる。

評価ツールの妥当性および信頼性:

 PQRSツールがこの研究で使用された。このツールは、標準的な、頻繁に使用されるツールである。しかし、研究者らは有効性と信頼性については考察を行っていない。

回答率:

 この試験では、調査票や質問票は使用されなかった。

結果:

 研究者らは、研究において実施しようとしている評価を行うために適切な統計分析を用いている。平均と標準偏差がインシデント・レートをパーセンテージとして決定している。集団内の比較は、分散分析とt検定を使って計算されている。P < .05カイの二乗が、統計学的に有意であるとみなされている。

 この研究の主な知見は以下の通りである。

  • 2つの群間ですべての時点で鼻咽頭温度に有意差があった(P < .01)。
  • 2つの群間でT2とT3におけるVは、T1に比べ有意に低かった(P < .05)。しかし、すべての時間を通じて、2つの群間の差は統計学的に有意ではなかった(P > .05)。
  • 手術後15分、40分、1日、3日における認知機能全体の回復には、2つの群間で有意差はみられなかった(P > .05)。

結果に基づく結論:

 研究者らは、術中のWBIが周術期の低体温の発生を減らすことができるが、それが周術期脳酸素代謝または認知機能回復に有意な影響を及ぼさないという知見を得た。

研究の制約:

 研究者らは、比較は、手術から3日間しか行っておらず、それ以上の観察を行うことができなかったことを指摘している。また、輸血量が限られていた。そのため、おそらく、もっと大量の血液を必要とした患者では異なる結果になる可能性がある。最後に、研究者らは、同種血と手術前採取の自己血とを区別しなかったと述べている。区別していれば、異なる結果が出た可能性もある。

エビデンスの質:

 「AORN研究エビデンス評価ツール」を用いて、この研究は、エビデンスの質「B」とした。これは、この研究によって合理的な程度に一貫性のある結果が得られ、ある程度の対照が設定され、かなり確定的な結論が導き出されているからである。

評価結果:

 「AORN研究エビデンス評価ツール」を用いて、この研究のスコアはI Bとした。

  • この研究のエビデンスレベルのスコアはIとした。これは、この研究が無作為化比較試験であり、したがって実験的研究であるからである。
  • この研究のエビエンスの質のスコアはBとした。これは、この研究によって合理的な程度に一貫性のある結果が得られ、研究デザインにとって十分なサンプルサイズを有しているように思われ、かなり確定的な結論が導き出されているからである。しかし、WBIがPOCDに及ぼす影響についてはまだ疑問があり、したがってこれは、実務に変更をもたらすべき研究としては提案されなかった。
  • I Bというスコアは、この研究が、外科チームとともに方針および手順を開発、またはデザインする際に周術期看護師が考慮するのが適切であることを示している。この手順は明らかに医学的決定に関連性を有していることから、看護師だけで新しい方針を定めることはできない。

周術期に対する示唆

 低体温は、外科患者、特に高齢患者の危険因子である。手術室で低体温を防止するために通常実施される現在の手順はすべて、周術期チーム・メンバーによって継続されるべきである。

POCDは今日もなおリスクであり、低体温を防止するためにどのようなケアを実施するかに関係なく、輸液および血液の加温によっては、術後の認知障害のリスクを低減することはできないと考えられることを認識しておくことが重要である。一時的、あるいはときには永続的なPOCDがなぜ起こるのかという因果関係のブラックボックスはまだ判明されていないが、この研究のような研究によって知識の幅を広げることができる。何がある作用を引き起こさないか、あるいはある作用の寄与因子とならないかを知ることは、何があることを引き起こすかを知ることと同じくらい重要である。周術期看護師は、今後も、手術前に高齢患者で認知機能を評価し、術後に比較できるよう直ちにそれをベースラインとして記録すべきである。

 本論文の評価は、ナース・コラボレーションズ(テキサス州ベルネ)のコンサルタント兼オーナーであるNancy Girard(PhD、RN、FAAN)が行った。Dr. Girardからは、本論文発表で利益相反の可能性が生じると認識される恐れのある関係は表明されていない。

監修(注釈): 社団法人日本看護協会 洪 愛子
訳: ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
メディカル カンパニー コミュニケーション部

ご注意ください

このページは日本に在住する医療従事者の方々を対象に作成されたものです。従いまして、一般の方のアクセスはご遠慮下さいますようお願い致します。