AORNジャーナル1月号(2016)

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*2013年1月号より、AORNジャーナルオリジナル版の様式が変更になり、月1回の更新となります。

フェンタニル誘発性咳嗽は、術後の悪心および嘔吐の危険因子のひとつ

エビデンス評価スコア IIIB

(Li CC, Chen SS, Huang CH, et al; Br J Anaesth. 2015;115(3):444-448)

エディターズノート

 研究論文を読み、有効な研究の成果を業務に取り入れることは、科学的根拠に基づく周術期看護を確保する上できわめて重要な点です。AORN研究エビデンス評価ツール「AORN Research Evidence Appraisal Tool」は、周術期看護師が研究を評価するのに有用なツールです。エビデンスのタイプの違いに応じて、次の3つの評価ツールが用意されています。すなわち「研究エビデンス評価ツール:研究」、「研究エビデンス評価ツール:要約」、「非研究エビデンス評価ツール」です。これらの評価ツールは、AORNのガイドラインが準拠するエビデンスを評価するために使用されます。これらの評価ツールは、単一の研究、複数の研究の要約、非研究エビデンスそれぞれのエビデンスのレベルとエビデンスの質を評価するのに使用することができます。個々の研究の知見がある特定の状況において価値があり関連性があるかどうか判断する場合には臨床的判断を使用すべきです。この研究の知見を看護業務に取り入れようとする場合には、その原著論文をレビューして個々の看護の状況への適用可能性を判断することが推奨されます。

 フェンタニルは、麻酔導入のために手術時に麻酔専門家によって使用される最も一般的な非経口オピオイド鎮痛剤の1つである。フェンタニルの使用は、フェンタニル誘発性咳嗽(fentanyl-induced coughing:FIC)を招く場合があり、ヒトにおいてその背後にある機序は不明であるが、ヒスタミンが関与していると思われる。通常、FICは、ほとんどの患者において一過性であり、自己制御的である。しかし、腹腔内圧、頭蓋内圧、眼内圧の上昇などの重篤な合併症が報告されている。FICに加えて、手術から24時間後に発生する悪心、嘔吐またはその両方と定義される術後悪心・嘔吐(postoperative nausea and vomiting:PONV)は麻酔に関連したよく見られる事象である。実際、FICは若年の、喫煙歴のない女性において発現頻度が高く、こうした集団は、PONVのハイリスク集団とみなされている。この知見は、PONVとFICがなんらかの共通の機序を共有している可能性を示唆している。この研究は、FICがPONVの危険因子かどうかを評価することを計画された。

エビデンスレベル:研究

 これが単一の研究の報告であることから、この研究の評価には「AORN研究エビデンス評価ツール」の「エビデンスレベル:研究」を用いた

AORN Research Evidence Appraisal Tool(AORN研究エビデンス評価ツール)

実施場所:

 この研究は、台北(台湾)にある大学病院で、2011年7月1日〜2012年7月30日にかけて実施された。

サンプルサイズおよび構成:

 この研究の参加者は、入院状態での非悪性疾患に対する子宮または卵巣の開腹手術が予定されていた502人の女性患者であった。組み入れ基準は、年齢が18歳〜60歳までであることと、アメリカ麻酔医学会の全身状態評価(ASA)スコアIまたはIIとした。除外基準は、肺疾患または心臓疾患の既往歴、肝臓機能障害または腎機能障害、気管支喘息または慢性閉塞性肺疾患の既往、喫煙歴、術前2週間の呼吸器感染症または消化管感染症の罹患、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、制吐剤、気管支拡張薬またはステロイドの術前使用、PONVまたは乗り物酔いの既往、または手術後の集中治療室への入室歴であった。肥満患者(BMI>30㎏/m2)および妊娠している患者も除外された。

 国立台湾大学病院の審査委員会は、研究プロトコールを承認した。この研究は、標準的な臨床ケアからの逸脱を必要としなかったため、患者からの書面による同意の要件は除外された。

介入:

 この研究では介入はなかった。

対照群:

 この研究には対照はなかった。

無作為割付:

 この研究には無作為割付は行われなかった。

エビデンスレベル:

 この研究が、対照群も無作為割付もない非実験的、前向きコホート研究であることから、この研究は「AORN研究エビデンス評価ツール」の「レベルIII」とした。

エビデンスの質:研究

 これが、単一の研究の報告であることから、この研究の評価には「AORN研究エビデンス評価ツール」の「エビデンスの質:研究」を用いた。

既存の情報:

 研究者らは、既存の情報を解説しており、この記述からは、吸入剤とオピオイドを投与し嘔吐予防薬を投与せずに行った全身麻酔後のPONV発現率が麻酔後回復室(post anesthesia care unit:PACU)ではおよそ10%、手術後の最初の24時間では30%であり、リスクの高い集団では発現率が70%〜80%まで上昇することが示されていた。術後悪心・嘔吐は、患者の行動を制限し、PACUからの退室を遅らせ、医療コストを押し上げる。最近の報告は、PONVを最も訴えの多い手術後の症状に挙げている。Apfelスコアは、PONVのリスクを層化すると確認された予測モデルである。このスコアは、PONVの4つの予測危険因子(すなわち、女性であること、乗り物酔いまたはPONVの既往、非喫煙、術後オピオイドの使用の4つの因子)から構成されている。0〜4つまでの5通りの危険因子の数に応じて、PONVの発現率はそれぞれ10%、21%、39%、61%、79%である。フェンタニル誘発性咳嗽が最初に報告されたのは20年以上前であり、その発現率は18%〜65%の間である。発現率にこれだけの幅がある原因は、フェンタニル注射の投与量と投与速度の違いと効果的な前治療の有無に求められる。

研究の目的:

 この研究の目的は、明確に述べられている。研究者らの研究目的は、麻酔導入時にFICを発現する患者ではPONV発現率が高まるかどうかを検証することにあった。オピオイド製剤の術後投与が変更可能な唯一の危険因子であることを踏まえ、研究者らは手術後にモルヒネの投与を受けた患者と受けなかった患者について、追加でロジスティック回帰分析を行った。

文献レビュー:

 文献レビューは、最新の文献を取り上げているようには見受けられなかった。列挙された24件の文献のうち過去5年以内に発表された文献は7件(29%)のみであった。

サンプルサイズ:

 502人の患者というサンプルサイズは、この研究デザインには十分であった。研究者らは、この研究対象集団におけるPONV発現率を60%と想定し、FICを呈さない患者におけるPONVの発現率の相対的減少率が30%となると仮定し、それにもとづいてこのサンプルサイズを推定している。研究者らはFICの発現率を30%と仮定し、α=0.05、β=0.20を得るには、それぞれの群において少なくとも131人の患者が必要であると推定した。

対照群:

 対照はなかった。

データ収集:

 研究者らは、標準的なケアとデータ収集の方法を明確に解説している。すべての患者にフェンタニルの急速静脈内投与(2㎍ ㎏−1)が行われた。麻酔実施者は、投与の1分後まで咳の発現を記録した。全身麻酔は、咳停止後またはフェンタニル注射の1分後に導入された。術中の無痛覚を確保するため必要に応じて50㎍のフェンタニルの断続的な急速投与が行われた。手術終了時、自発呼吸の回復と同時に気管内チューブが抜管され、患者はPACUに移送された。術後の評価はすべて、患者がFICを経験したかどうかについて盲検化された観察者によって行われた。術後オピオイド製剤と制吐剤の投与の必要性が、PACUでは当直の麻酔医によって、病棟では相談対応の麻酔医によってそれぞれ評価された。ほとんどの患者は、術後疼痛の最初の訴えがあった時点でケトロラク30㎎が静脈内投与され、それ以降の疼痛の訴えにはモルヒネの静脈内投与が行われた。一部の患者は自費で、手術後にモルヒネIV注射による自己調節鎮痛法を行うことを選んだ。この研究の設定で使用された健康保険制度では、このオプションに対する支払いは行われず、これを行うには、患者自身が要請することが必要となった。PACUの訓練を受けた看護師が、患者の悪心および嘔吐の訴えの発現率を記録した。訓練を受けたもう一つの麻酔看護師のグループが、0〜2の評価尺度で手術から24時間後のPONVの発現率と重症度を評価し、記録した(0=悪心も嘔吐もない、1=許容可能な悪心または嘔吐、2=プロクロルペラジン5㎎の筋内注射を必要とする難治性の悪心または嘔吐)。手術後の最初の24時間以内にどのような程度であれ悪心または嘔吐を経験した患者は、PONVを発現した患者に分類された。

評価ツールの信頼性および妥当性:

 評価ツールは使用されなかった。

回答率:

 調査票や質問票も使用されなかったため、回答率は当てはまらない。

結果:

 研究に登録された502人の患者のうち、154人(31%)がFICを発現し、220人(44%)がPONVを発現した。FIC群におけるPONV発現率は、非FIC群におけるPONV発現率に比べて有意に高かった(56.5%対38.2%、P < 0.0001)。多変量ロジスティク分析は、FICがPONVの発現率の前兆となる危険因子であることを示した(調整オッズ比1.91、95%信頼区間1.20〜3.05)。術後モルヒネを投与された患者サブ集団について分析したところ、144人の患者のうち50人(35%)がFICを発現していた。PONVを経験した患者と経験しなかった患者との間に有意差は見られなかった(35.1㎎対34.1㎎、P=0.14)。多変量ロジスティック回帰分析から、FICがPONV発現の予測因子となることが示された(調整オッズ比2.70、95%信頼区間1.28〜5.70)。

結果に基づく結論:

 研究者らは、FICの発現率が31%であったと報告している。これは、それ以前に報告されている発現率とほぼ同じである。さらに、研究者らは、開腹術による子宮または卵巣の予定手術を受けFICを示したApfelスコア2または3の非喫煙女性におけるPONV発現率がより高かったと報告している。

研究の制約:

 研究者らは、自身の研究にどのような制約があるか列挙している。非喫煙女性しか組み込まなかったため、結果は、男性にも、Apfelスコアより高い、あるいはより低い女性にも一般化することはできない。この研究の設定での医療費の財源に関する制約により、必ずしもすべての患者に同じ術後オピオイド投与レジメンを使用することができなかった。しかし、すべての患者に2つの術後モルヒネ投与レジメンのうちいずれか1つが適用された。患者の経過観察は、術後24時間しか行われなかった。したがって、術後第1日目以降にFICがPONVに及ぼした影響を評価することができなかった。最後に、研究者らは、患者におけるPONVの発現率が60%であると仮定したが、観察された発現率は44%であった。

エビデンスの質:

 「AORN研究エビデンス評価ツール」を用いて、この研究は、エビデンスの質「B」とした。これは、検出力分析が実施され、サンプルサイズが十分であり、研究者らの結論と研究の結果との間に一貫性があるためである。しかし、文献レビューは、最新の文献を取り上げておらず、研究結果は研究集団以外の集団に一般化できるとは考え難い。

評価結果:

 「AORN研究エビデンス評価ツール」を用いて、この研究のスコアはIII Bとした。

  • この研究のエビデンスレベルのスコアはIIIとした。これは、この研究が、前向きの非実験的研究であるためである。
  • この研究のエビデンスの質のスコアはBとした。これは、この研究によって合理的な一貫性のある結果が得られ、研究デザインにとって十分なサンプルサイズを有しており、かなり確定的な結論が導き出されているためである。

III Bというスコアは、この研究が、他の一次エビデンス源の裏付けがある場合に限り、周術期プロセスの方針および手順を開発、または計画する際に、周術期看護師がこのエビデンスを二次エビデンスとして考慮することが適切であると示している。強さ又は質が低いからといってその研究がエビデンス源として必ずしも劣っている、あるいは許容できないというわけではない。また、評価が低いからといって必ずしも、エビデンスが重要でない、あるいは関連性がないことを意味するわけではない。

周術期に対する示唆

 この研究の結果は、麻酔誘導中にFICを発現した婦人科手術を受けた非喫煙女性が、FICを発現しない患者に比べPONVの発現率が高いことを示している。研究者らは、FICの機序が不明であることに言及しながらも、ヒスタミンが関与していると思われると報告し、さらに研究を実施すべきであると指摘している。研究者らは、抗ヒスタミン薬がFICの発現率を低下させることができるかどうか、あるいは、麻酔誘導時にFICを発現した患者におけるPONVの発現率を抗ヒスタミン剤が低下させることができるかどうかを評価するには更なる研究が必要であると結論づけている。周術期看護師は、いつでもそのような研究を計画することや参加できる状態を準備すべきである。さらに、麻酔誘導中にFICを発現した患者はPONVを発現するリスクが高い考えられることから、周術期看護師は、患者が麻酔誘導時にFICを発現したかどうかに関する情報がPACUスタッフに伝えられることを今後も確保しなければならない。

 本論文の評価は、SUNY医療関連職カレッジ(ニューヨーク州ブルックリン)ニューヨークメソジスト病院感染予防部長兼臨床准教授であるGeorge Allen(PhD、MS、BSN、RN、CNOR、CIC)が行った。Dr. Allen からは、本論文発表で利益相反の可能性が生じると認識される恐れのある関係は表明されていない。

監修(注釈): 社団法人日本看護協会 洪 愛子
訳: ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
メディカル カンパニー コミュニケーション部

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