AORNジャーナル5月号(2016)

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*2013年1月号より、AORNジャーナルオリジナル版の様式が変更になり、月1回の更新となります。

帝王切開分娩時の皮膚消毒薬の無作為化比較試験

エビデンス評価スコア IA

(Tuuli MG, Liu J, Stout MJ, et al. ; N Engl J Med. 2016;374(7):647-655.)

エディターズノート

 研究論文を読み、有効な研究の成果を業務に取り入れることは、科学的根拠に基づく周術期看護を確保する上できわめて重要です。AORN研究エビデンス評価ツール「AORN Research Evidence Appraisal Tool」は、周術期看護師が研究を評価する上で有用なツールです。エビデンスのタイプの違いに応じて、次の3つの評価ツール「研究エビデンス評価ツール:研究」、「研究エビデンス評価ツール:要約」、「非研究エビデンス評価ツール」が用意されています。これらの評価ツールは、AORNのガイドラインが準拠するエビデンスを評価するために使用されます。また、単一の研究、複数の研究の要約、非研究エビデンスそれぞれのエビデンスのレベルとエビデンスの質を評価するのに使用することができます。本評価ツールのセクションごとに、この研究に対して何故その評価スコアが付されたのか、またそのスコアが周術期看護業務にどのような意味をもつのかを明確に理解できるよう論じています。個々の研究の知見がある特定の状況において価値があり関連性があるかどうか判断する場合には、臨床による判断を行うべきです。この研究の知見を看護業務に取り入れようとする場合には、その原著論文をレビューして個々の看護の状況への適用可能性を判断することが推奨されます。

 手術部位感染(SSI)は、すべての外科手術のうち2%〜5%、帝王切開分娩においては5%〜12%においてみられる。米国では、帝王切開分娩は、女性が受ける最も一般的な外科手技である。2013年の390万件の出生のおよそ32.7%(130万件)が帝王切開分娩であった。分娩後の感染は多額の費用を要し、余分の負担を新しい母親に課し、母子のきずなと授乳の妨げとなるおそれがある。帝王切開分娩後のSSIに起因すると思われる平均医療費は、3,529ドルと推定されている。

 皮膚は、SSIを引き起こす病原巣となりうることが知られている。したがって、効果的な術前の皮膚消毒を実施することができれば、SSIのリスクを低減することができる。しかし、帝王切開分娩時に使用すべき消毒薬の選択の指針とエビデンスが欠けている。合計189人を被験者とする3件の小規模な臨床試験の結果が最近発表された。これらの臨床試験では、帝王切開分娩での術前皮膚処置に使用した消毒薬が比較されたが、SSI発現率に群間の有意差は見られなかった。また、観察研究のデータは矛盾している。一般的な外科手術を受けている患者を主として対象とした無作為化臨床試験は、ヨード系消毒薬よりもクロルヘキシジン系消毒薬の方がSSI予防に優れていることを示唆している。しかし、ほとんどの臨床試験は、クロルヘキシジンとアルコールの併用とヨード系単独を比較したものである。さらに、帝王切開分娩独自の要素、すなわち、病原体供給源が2重に存在し、皮膚由来と膣由来の病原体の両方が帝王切開分娩後のSSIに寄与することと、妊娠期に免疫が変調するという2つの要素が、一般的な外科手術における術前皮膚消毒の臨床試験結果を帝王切開分娩に推定することができるどうか疑問を投げかけている。

 Tuuliらの実際的な無作為化比較対照試験は、クロルヘキシジン+アルコールによる術前皮膚消毒のほうがヨード+アルコールよりも帝王切開分娩後のSSI予防に優れているという仮説を検証するようにデザインされた。これが単一の研究の報告であることから、この研究の評価には「AORN研究エビデンス評価ツール」の「エビデンスレベル:研究」を用いた。

エビデンスレベル

 この研究は、「AORN研究エビデンス評価ツール:研究」を用いて「レベルI」とした。この分類の根拠を以下のセクションで説明する。

介入/操作

 帝王切開分娩を経験する妊婦を、2つの処置群のいずれかに無作為化した。患者は、クロルヘキシジン+アルコールの組合せかヨード+アルコールの組合せの2つの皮膚処置消毒薬レジメンのいずれか1つを受けるように割付けられた。

対照/比較群

 この試験には対照群はない。患者は全員、2つの消毒薬レジメンのうちいずれか1つで処置された。

無作為割付け

 研究者は、2つの介入群のうちいずれか1つに1対1の割合で参加者を無作為に割付けた。研究者は、コンピュータ生成ランダム・シーケンス・システムを使用した。

エビデンスの質

 「AORN研究エビデンス評価ツール:研究」を用いて、この研究は、エビデンスの質「A」に分類した。この分類の根拠は、以下のセクションで説明する。

AORN Research Evidence Appraisal Tool(AORN研究エビデンス評価ツール)

目的/背景

 この研究の目的およびリサーチクエスチョンは明確に述べられており、研究者はリサーチクエスチョンについて既知のことがらと未知のことがらを特定し、この研究が未解明の課題にどのように取り組むかを明らかにしている。研究者は、クロルヘキシジン+アルコールによる術前皮膚消毒の方がヨード+アルコール術前皮膚消毒剤の使用に比べ、帝王切開分娩後のSSI予防に有効であるという仮説を検証した。この試験はワシントン大学施設内審査委員会の承認を得、独立したデータ・安全性モニタリング委員会の監督を受けた。

 文献レビューは十分であった。なお、参考文献に挙げられている29件の文献のうち、過去5年以内に発表された文献は11件(38%)のみであった。発表年は古いものの、参考文献はリサーチクエスチョンに関連性を有している。

無作為割付

 患者は、1対1で無作為化され、2つの処置群のいずれか1つに割付けられた。無作為化は、この試験の統計家によって作成されたコンピュータ生成ランダム・シーケンスを使って行われた。責任研究者は、試験群の割付けを知らなかった。

対照群

 この試験では対照群はなかった。

介入

 介入はリサーチクエスチョンに対応しており、処置群ごとの介入は、再現可能として詳細に説明されている。患者は、次の2つの処置群のうちいずれか1つに無作為に割付けられた。

  • 2%グルコン酸クロルヘキシジンと70%イソプロピルアルコール
  • 8.3%ポビドンヨードと72.5%イソプロピルアルコール

 プライマリー・エンドポイント(主要評価項目)は、疾病管理予防センター(CDC)の全米医療安全性ネットワークの基準と定義にもとづいて、帝王切開分娩後の30日以内の表層または深層SSIとされた。セカンダリー・エンドポイント(副次的評価項目)は、入院期間、外来受診、再入院(原因が感染に関連した合併症、子宮内膜炎、切開部位培養物の陽性反応、皮膚刺激またはアレルギー反応によるもの)のいずれか、とした。その他のエンドポイントは、皮膚離解、漿液腫、血腫または蜂巣炎などの切開部位合併症、切開部位合併症による救命救急外来への受診、切開部位の再手術、在宅医療サービスまたは診療所での創傷処置の利用、切開部位の治療継続である。

サンプルサイズ

 試験は、2011年9月から2015年6月にかけてミズーリ州セントルイスのワシントン大学医療センターで帝王切開分娩を受ける妊婦を対象に実施された。除外基準は、クロルヘキシジン、アルコール、ヨードまたは甲殻類に対する既知のアレルギー、手術部位に隣接した皮膚感染の存在であった。合計1,636人の妊婦に対して適格性のスクリーニングが実施され、そのうち489人が、組み入れ基準を満たさなかった、妊婦が参加を辞退した、インフォームドコンセントを得る試験スタッフ・メンバーが手配できなかったなどの理由により除外された。合計1,147人の女性が、クロルヘキシジン+アルコール(n=572)かヨード+アルコール(n=575)のいずれかの術前皮膚処置を受けるよう無作為に割付けられた。1,147人の患者のサンプルサイズは、試験デザインにとって十分であった。研究者は検出力分析を行い、それぞれの処置群が542人の女性から構成される1,084人の参加者からなるサンプルサイズがあれば、この試験でSSIの発現率の50%の差を80%検出することができると判断した(両側アルファ・レベル0.05)。

 すべての参加者について必要な情報が収集された。14人の患者が割付けられた介入を受けなかった。その最も多い原因は、無作為化後、消毒薬に対するアレルギーを有することを研究者が発見したことである。さらに、クロルヘキシジン+アルコール群の34人、ヨード+アルコール群の31人の合計65人の患者が追跡不能であった。

データ収集

 研究者は、明確にデータ収集方法を解説している。皮膚処置は、メーカーの指示に従って外回り看護師が行った。患者は、体重にもとづく術前抗生剤予防投与を含めた標準的な感染予防処置も受け、退院まで毎日経過観察された。退院後30日以内に、診療所受診、救急外来での受診、または病院へ再入院したかどうかを評価するため、患者は電話を受けた。研究責任者は、医療記録をレビューし術後の受診または再入院の診断を確認した。データ収集には、人口統計学的データも含まれた。各アウトカムの精度は、統計学的有意性の有無を示す信頼区間で裏づけられており、結果/結論セクションに記載している。

結果/結論

 2つの表と2つの図が提示されている。表と図は本文と一致していた。

 試験のアウトカムは明確に述べられている。クロルヘキシジン+アルコール群では23人の患者(4.0%)、ヨード+アルコール群では42人の患者(7.3%)がSSIと診断された(相対リスク0.55、95%信頼区間[CI]0.34〜0.90、P=.02)。表層感染の罹患率は、それぞれクロルヘキシジン+アルコール群が3.0%、ヨード+アルコール群が4.9%であり(P=.10)、深層感染症の罹患率は1.0%と2.4%であった(P=.07)。30日の経過観察を最後まで終えた1,082人の患者(94.3%)(クロルヘキシジン+アルコール群が538人、ヨード+アルコール群が544人)におけるSSI罹患率は、クロルヘキシジンとアルコールで処置受けた人々のほうがヨードとアルコールで術前皮膚処置された患者に比べ有意に低かった(4.3%対7.7%、相対リスク0.55、95%信頼区間 0.34〜0.91、P=.02)。有害皮膚反応の頻度は、2つの群でほぼ同じであった。

 研究者の結論は、研究の結果と一致していた。研究者は、術前皮膚処置にクロルヘキシジン+アルコールが使用された場合の帝王切開分娩後のSSIのリスクが、ヨード+アルコールが使用された場合に比べ有意に低かったと報告している。セカンダリー・エンドポイント(感染に関連した合併症による再入院、入院期間の長さ)の発現率は、2つの群間に有意差は見られなかった。クロルヘキシジン+アルコール群に割付けられた患者が切開部位の懸念により医院に受診する確率は、ヨード+アルコール群に割付けられた患者に比べ有意に低かった(7.9%対12.5%、相対リスク0.63、95%信頼区間 0.44〜0.90、P=.009)。

制約/今後の研究

 研究者は自身の研究の制約について考察しており、エビデンスに関する考察は正確であった。彼らは、臨床試験が単一の施設で実施されており、それ自体は知見の再現性に疑問を投げかけるものであるが、研究対象は人種的にも社会経済的にも多様であり、また、産科医療従事者も多様であり、予定帝王切開分娩も緊急帝王切開分娩も含まれていたと指摘している。さらに研究者は、参加者と医療従事者に対する盲検化が行われなかったことがバイアスを生じさせる可能性があるが、そのようなバイアスは、無方向(方向とは、オッズ比が高くなる、あるいは低くなるといった、あるパラメータに対してバイアスが生じさせる変化の方向を指す)であると予想されると指摘している。

バイアス

 研究は、バイアスが生じないよう予防措置を講じている。2つの処置群の患者に対して同じような標準的皮膚処置手順が使用された。さらに、研究者は、追跡不能例を最小限に抑えSSIを追跡するための電話を含めた能動的サーベイランス手法を使用し、また、盲検的手法で医療記録をレビューし、プライマリ・アウトカムを検証した。介入の影響は、研究者によって過大にも過小にも評価されていない。

妥当性

 客観的な確認を行えるようCDC全米医療安全性ネットワーク定義が使用されていることからも分かるように、研究の結果は健全な方法によって得られている。

一般化可能性

 研究者は、この研究の結果がクロルヘキシジン系消毒薬のほうがヨード系消毒薬よりもSSIの防止に優ることを示唆する過去の研究の結果と一致していると報告している。しかし、研究者は、帝王切開分娩後のSSI予防効果について消毒薬を比較した過去に発表された小規模な3件の無作為化試験のいずれも、クロルヘキシジン+アルコールとヨード+アルコールを比較していないため、この臨床試験の結果を比較できるのは、非産科患者を対象とした臨床試験だけである述べている。さらに、研究者は、彼らの研究結果が、ある大規模な、非無作為化順次実施試験の結果と異なっていると指摘している。この試験は、ヨード+アルコールによる消毒が、クロルヘキシジン+アルコールでの消毒に比べSSIの発現率が低かったと報告している。研究者は、この差の理由は不明であるとしながらも、外科手技の種類の違いと測定していないパラメータによる交絡の可能性が妥当な説明であると報告している。研究結果は、移転可能であり、外科手技が行われる他の状況に適用可能である。

評価結果

 「AORN研究エビデンス評価ツール:研究」を用いて、この研究のスコアはIAとした。

  • この研究のエビデンスレベルのスコアはIとした。これは、この研究が、無作為化比較試験であったためである。
  • この研究のエビデンスの質のスコアはAとした。これは、この研究が、起こりうるバイアスに対する予防手段を講じており、サンプルサイズが研究デザインに対して十分であると思われ、さらに、合理的な程度に一貫性のある結果を提示しており、かなり確定的な結論に至っている結論に至っているからである。
  • IAというスコアは、この研究が、現在得られる最善の研究エビデンスであり、周術期看護師がこのエビデンスを自身の看護実践の指針とみなすことが適切であることを示している。

周術期に対する示唆

 この研究の結果は、帝王切開分娩の術前皮膚消毒におけるクロルヘキシジン+アルコールの使用がヨード+アルコール術前皮膚消毒と比べて、SSIのリスクが有意に低いことと関連していることを示している。さらに、この研究は、術前皮膚処置でのクロルヘキシジン+アルコールの使用がSSIのリスク低減に有効であるというエビデンスを提供している。

 クロルヘキシジン・アルコール製品を推薦するとき、周術期看護師は、自身の施設における外科的皮膚処置に使用する消毒薬の選択とレビューに関与する際、この研究を挙げることができる。

 本論文の評価は、SUNY医療関連職カレッジ(ニューヨーク州ブルックリン)ニューヨークメソジスト病院感染予防部長兼臨床准教授であるGeorge Allen(PhD、MS、BSN、RN、CNOR、CIC)が行った。Dr. Allen からは、本論文発表で利益相反の可能性が生じると認識される恐れのある関係は表明されていない。

監修(注釈): 社団法人日本看護協会 洪 愛子
訳: ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
メディカル カンパニー
コミュニケーション & パブリックアフェアーズ

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