AORNジャーナル9月号(2016)

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*2013年1月号より、AORNジャーナルオリジナル版の様式が変更になり、月1回の更新となります。

手術時ハンド・スクラビング法が皮膚の完全性(損傷のない健全な状態)及び手術部位感染率に及ぼす影響:システマティック・レビュー

エビデンス評価スコア II B

(Liu LQ, Mehigan S.; AORN. 2016;103(5):468-482)

エディターズノート

 研究論文を読み、有効な研究の成果を業務に取り入れることは、科学的根拠に基づく周術期看護を確保する上できわめて重要です。AORN研究エビデンス評価ツール「AORN Research Evidence Appraisal Tool」は、周術期看護師が研究を評価する上で有用なツールです。エビデンスのタイプの違いに応じて、次の3つの評価ツール「研究エビデンス評価ツール:研究」、「研究エビデンス評価ツール:要約」、「非研究エビデンス評価ツール」が用意されています。これらの評価ツールは、AORNのガイドラインが準拠するエビデンスを評価するために使用されます。また、単一の研究、複数の研究の要約、非研究エビデンスそれぞれのエビデンスのレベルとエビデンスの質を評価するのに使用することができます。本評価ツールのセクションごとに、この研究に対して何故その評価スコアが付されたのか、またそのスコアが周術期看護業務にどのような意味を持つのかを明確に理解できるよう論じています。個々の研究の知見がある特定の状況において価値があり関連性があるかどうか判断する場合には、臨床による判断を行うべきです。この研究の知見を看護業務に取り入れようとする場合には、その原著論文をレビューして個々の看護の状況への適用可能性を判断することが推奨されます。

 手術部位感染(surgical site infections: SSIs ここでは以下SSIと略す)は、世界中で医療の大きな懸念事項となっている。米国では、1年間のすべての医療関連感染の約24%をSSIが占めており、その結果こうした感染を治療するため、約33億ドルもの費用が投じられている。SSIを発症した患者においては、在院期間が長くなる、切開部位の治癒が遅れる、抗生物質の使用量が増える、死亡リスクが高まるなどの傾向が見られる。SSIを発症させる因子はいくつかあるが、そのなかでも手術チーム・メンバーの手指衛生が特に重要であることが報告されている。こうしたことから、SSIのリスクを低減するため、AORN、WHO世界保健機構、NHS英国国立医療技術評価機構などのいくつかの国レベルの組織、国際的組織が、手術室での手術時スクラビング についての提案とガイドラインを作成し、配布している。これらのガイドラインが導入されているにもかかわらず、スクラビングにかける時間の長さと使用される消毒液のタイプは、医療が実施される環境や国によって異なる。従来から、米国、さらに世界中で7.5%ポビドンヨード液か4%グルコン酸クロルヘキシジン液のいずれかが使用されてきた。しかし、欧州では、4%クロルヘキシジン液、1%トリクロサン、アルコール製剤数種の使用が広まっている。

 皮膚刺激が、ハンド・スクラビング・ガイドライン規定の遵守が不良である要因となっていると考えられている。手術時ハンド・スクラビングの実施と、アルコールによるハンド・ラビング法または消毒液によるハンド・スクラビング法に対する感じ方を評価したある最近の研究では、消毒液によるハンド・スクラビングを行った被験者に比べ、アルコール・ラビングを使用した被験者において皮膚アウトカムの改善が見られる頻度が高かったと報告している。手術チームに手指衛生の行い方を伝えるには、ハンド・スクラビングによる手術チーム・メンバーの皮膚への影響について現在得られているエビデンスを理解することが必要である。しかし、さまざまな手術時スクラブ法が皮膚完全性に及ぼす影響と、SSIを予防するうえでの有効性を評価するにはエビデンスが欠けている。

 そのため、この研究は、皮膚完全性とSSI予防に関するさまざまな手術時スクラビング法の有効性に関して報告されているエビデンスを批判的に評価し、統合することを目的としている。以下の3つの問いが検討されている。

  • スクラビング法の違いによる皮膚完全性に対する影響はどのようなものであるか?
  • スクラビング法に関連した皮膚の損傷がどのように測定され、どの測定ツールが使用されたか?
  • 手術時スクラビング法のSSI予防効果がどのように測定され、スクラビング法のあいだでどのような差が存在するか?

 これが複数の研究の報告であることから、この研究の評価には「AORN研究エビデンス評価ツール:要約」を用いた。

エビデンスレベル:要約

 この研究は、「AORN研究エビデンス評価ツール:要約」を用いてエビデンスレベルをレベルIIとした。この研究の著者は、いくつかの調査研究を要約し、包括的な検索戦略と厳格な評価を使い、そのレビューの一環として定性的研究から得られた概念を分析、統合している。この研究には、無作為化比較試験(RCT)と非RCTが含まれている。

エビデンスの質:要約

 この研究は、「AORN研究エビデンス評価ツール:要約」を用いてエビデンスの質をBとした。この分類の根拠を以下のセクションで説明する。

AORN Research Evidence Appraisal Tool(AORN研究エビデンス評価ツール)

目的/背景

 この研究の目的は明確に述べられている。すなわち、異なる手術時スクラビング法の皮膚完全性への影響とSSI予防効果に関して現在のエビデンスを総合し、評価することである。研究者は、手術時スクラビングについて公表されているガイドラインの遵守が不良であることを示唆するエビデンスを特定し、皮膚刺激をその寄与因子として挙げている。過度なスクラビングは皮膚刺激や乾燥などの皮膚科的症状を引き起こし、それが次には、手指の正常細菌叢の中断につながり、それがより多くの微生物が脱落する原因となり、医療従事者が患者に感染を伝播するリスクを高めることが報告されている。さらに、得られたエビデンスは、アルコール擦式製剤によるラビング法が、消毒薬スクラブ法を用いた場合に比べ皮膚刺激が軽度であることを示している。2つの手指衛生法の効果を比較した研究は、アルコール擦式製剤を使用した看護師に比べ、石鹸と水で手を洗った看護師のほうが、表皮の含水量が有意に低かったと報告している。しかし、この研究は、手術室の看護師ではなく、病棟の看護師を対象にしたものであることが指摘されている。

検索

 このシステマティック・レビュー手法は再現可能である。著者は、手術時スクラビング手法による皮膚完全性への影響とSSI発生率について、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature、MEDLINE、PubMed、EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled Trialsを検索した。検索は、1990年から2015年1月までのあいだに発表された文献を対象に行われた。検索語は、(片)手、(両)手、手洗い、手指消毒、手術時スクラブ、手術NEAR感染、手術NEAR創傷、手術後、術後、NEAR(創傷NEXT感染症)、周術期ケア、術前、手術前、皮膚完全性、皮膚損傷、皮膚刺激、皮膚忍容性、皮膚発赤、皮膚荒れ、皮膚症状であった。

 さらに著者は、公表されている関連するガイドラインがないかAORN、英国国立医療技術評価機構、スコットランド大学間共通ガイドラインネットワーク、世界保健機構を検索し、該当する研究の参考文献と、研究に含めるべき研究がないか他の関連するレビュー論文をチェックした。未発表の文献は特定されなかったか、考慮されなかったかのいずれかであった。組み入れ基準は、SSI予防手技としてなんらかのタイプの手術時スクラビング法を比較したRCTと非RCTであった。また、以下の研究もこの研究に組み入れられた。

  • 一次研究
  • 病院または外来手術センターの手術室で働くスクラブ・チームに属する職員をターゲット集団とする研究
  • SSIを予防するために使用する手術時ハンド・スクラビング法を組み入れた介入が実施された研究
  • 外科手技に起因するSSI率と皮膚完全性評価を含むアウトカム・パラメータを組み入れた研究

実験室のみの研究、動物実験、学術会議の議事録に発表された研究、手術室スタッフでない参加者から構成された研究、手術時スクラビングに関連した皮膚反応について報告していない研究は除外された。

各研究のバイアスを含めた研究方法の質のリスクは、システマティック・レビューにおいて使用される方法で、確立された、有効性が確認されたツールであるEffective Public Health Practice Project品質評価ツールを使って評価されている。その結果、研究の半分以上が研究方法の質が低い研究に分類された。研究方法の質が中に分類された研究は3件、研究方法の質が高に分類された研究は1件だけであった。

エビデンスのレビュー:文献レビューは十分であった。列挙されている38件の文献のうち、25件(65.7%)が5年以上前に発表されたものであった。参考文献の発表年は古いものの、リサーチクエスチョンと関連性を有するものであった。組み入れ基準を満たした臨床試験のうち、2009年以後に発表されたものはなかった。エビデンスの強さ(レベルと質)を評価する方法は厳格であった。2人のレビュアーが、関連性を有すると考えられるすべての研究の全文を、独立してレビューした。2人のレビュアーのあいだに意見の相違があった場合は、議論によって解決され、コンセンサスが得られた。

著者は、1つの図と3つの表を発表した。図は、レビューに組み入れる研究の選定プロセスと、各研究の関連性の調査方法を概説したフローチャートである。内訳は以下の通りである。

  • レビュー候補に上った総研究件数は1,078件であった。
  • 他の情報源を通じてその他に2件の研究がレビュー候補に上り、総研究件数は1,080件となった。
  • 665件の研究が重複しており、それらを除くと残りは415件であった。
  • 次にその中から405件の研究が、さまざまな理由から除外された(例えば、英語で書かれた研究でない、実験室での研究である、参加者が手術時スクラブ・チームでなかった、誤った介入を行っている、アウトカムの尺度が定義されていない、学術会議での発表論文であった、レビュー論文であった、などである)。
  • 最終的に10件のフルテキストの論文がレビューされ、統合された(RCTが8件、非RCTが2件)。

著者の最初の表には、システマティック・レビューに含めた各研究の要約、研究年と国名、エビデンスタイプ、サンプルサイズ、研究が行われた状況、サンプルへの介入、研究の知見と制約、品質とエビデンスレベルが紹介されている。個々の研究の強さは記載されていない。2つ目の表には、システマティック・レビューの対象となった10件の研究における皮膚アウトカム測定ツールに関するデータが報告されている。

データ収集

 著者は、介入タイプが共通している研究、アウトカム尺度が共通している研究、均質な集団をサンプリングした研究について、SSIに対する手術時スクラビング法の統合効果を推定するための定性的プール解析を行った。試験群が3つ以上設定された研究については、アウトカムが対照群とそれぞれ別個に比較された(例えばスクラビング法とラビング法、ブラシング法と非ブラシング法)。データが連続的データである場合は、加重平均差が95%信頼区間(CI)で計算された。データが2値データ、またはカテゴリカルデータである場合は、相対危険度が95% CIで計算された。大きな異質性を示す研究については、ランダム効果モデルを用いて平均差が計算された。異質性を示さなかった研究については、固定効果モデルを用いて効果量が計算された。手術時スクビングによる皮膚完全性への影響の正式なプール解析は、アウトカム尺度が一様でなかったため、不可能であった。研究者は、皮膚完全性に対する影響に関連したデータを記述的に統合し、表にまとめ、正確性を期すため、もう1人のレビュアーにすべてのデータの検証を実施させた。

結果/結論

 10件の研究のうち2件は、手術から30日以内にSSI発生率を測定した。プール解析において、3つ目の表では、7.5%ポビドンヨードまたは4%グルコン酸クロルヘキシジンを含有している従来の消毒液によるスクラビング法とアルコール液によるハンド・ラビング法の間にはSSI率に有意差がないことが示された(リスク比=1.17、95% CI=0.72-1.88、P=.53)。異質性は低かった(I2=26%)。研究者の結論は、研究の結果と一致していた。研究者は、ハンド・ラビング法が、溶液にグルコン酸クロルヘキシジンまたはポビドンヨードが含まれているかどうかにかかわらず、また濃度と時間にかかわらず、従来の方法と同程度にSSI予防に有効であるというエビデンスが得られたと報告している。さらに研究者は、消毒薬利用者にとってハンド・ラビング法のほうが、忍容性が良好であるように思われ、従来のスクラビング法に比べ皮膚の損傷が少なく、ブラシを使用しない手技のほうが、ブラシを使用するスクラビングに比べて参加者の皮膚にとってよいように思われると報告している。

制約/将来研究

 研究者は、この研究について考慮すべき制約について考察している。まず、このシステマティック・レビューの対象とした研究には、二重盲検が行われていないという制約がある。第2に、皮膚科的アウトカムにかなりの異質性があったため、対象とした研究の一部について、プール解析を行うことができなかった。第3に、分析に組み入れられた手術時スクラビングに関連した皮膚状態を評価した2つのRCTが1990年代に公表されたものであった。最後に、研究者が解釈するための資源を有していなかったため、英語以外の文献が除外された。

評価結果

 「AORN研究エビデンス評価ツール」の「要約」を用いて、この研究は、エビデンスの質をII Bとした。

  • この研究のエビデンスレベルのスコアはIIとした。これは、RCTと非RCTの両方を含むメタアナリシスによるシステマティック・レビューであったからである。
  • この研究のエビエンスの質のスコアはBとした。これは、この研究の目的が明確に述べられていたこと、検索戦略が再現可能であったこと、この研究が潜在的バイアスに対する予防措置を講じており、研究デザインから見て十分なサンプルサイズを有し、合理的な程度に一貫した結果を提示し、かなり決定的な結論に至ったからである。しかし、このレビューに含まれた研究の半分以上が、研究方法の質が低いと評価され、組み入れ基準を満たした研究のうち2009年以降に発表されたものはなかった。
  • II Bというスコアは、このシステマティック・レビューの結果が、周術期看護師が自身の業務の指針を検討するのに適していることを示している。

周術期に対する示唆

 この研究の結果は、ハンド・ラビング法が従来のスクラビング法と同等程度に有効であり、忍容性が良好であることを示している。ハンド・ラビング法は、従来のスクラビング法よりも、生じる皮膚の損傷が少なく、また消毒液を使用する医療従事者にとって、ブラシを使用しない手技のほうが、ブラシによるスクラビングに比べて忍容性が良好であるように思われる。周術期看護師は、これらの結果を確認するための適切にデザインされたRCTをいつでも計画、実施できる状態であるべきである。患者の安全とSSIの予防が最も重要であり、手術チーム・メンバーは、実証された有効なハンド・スクラビング法を遵守することが不可欠である。

 本論文の評価は、ニューヨークメソジスト病院感染予防部長、SUNY医療関連職カレッジ(ニューヨーク州ブルックリン)臨床准教授であるGeorge Allen(PhD、MS、BSN、RN、CNOR、CIC、FAPIC)が行った。Dr. Allen からは、本論文発表で利益相反の可能性が生じると認識される恐れのある関係は表明されていない。

監修(注釈): 社団法人日本看護協会 洪 愛子
訳: ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
メディカル カンパニー
プロフェッショナルエデュケーション

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