AORNジャーナル10月号(2016)

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*2013年1月号より、AORNジャーナルオリジナル版の様式が変更になり、月1回の更新となります。

看護せん妄スクリーニングスケール(NU-DESC)を用いた麻酔回復室の看護スタッフによる術後せん妄の評価:スイスの単一医療機関における1000人の患者の前向き観察研究

エビデンス評価スコア III B

(Winter A, Steurer MP, Dullenkopf A. ; BMC Anesthesiol. 2015;15:184)

エディターズノート

 研究論文を読み、有効な研究の成果を業務に取り入れることは、科学的根拠に基づく周術期看護を確保する上できわめて重要です。AORN研究エビデンス評価ツール「AORN Research Evidence Appraisal Tool」は、周術期看護師が研究を評価する上で有用なツールです。エビデンスのタイプの違いに応じて、次の3つの評価ツール「研究エビデンス評価ツール:研究」、「研究エビデンス評価ツール:要約」、「非研究エビデンス評価ツール」が用意されています。これらの評価ツールは、AORNのガイドラインが準拠するエビデンスを評価するために使用されます。また、単一の研究、複数の研究の要約、非研究エビデンスそれぞれのエビデンスのレベルとエビデンスの質を評価するのに使用することができます。本評価ツールのセクションごとに、この研究に対して何故その評価スコアが付されたのか、またそのスコアが周術期看護業務にどのような意味をもつのかを明確に理解できるよう論じています。個々の研究の知見がある特定の状況において価値があり関連性があるかどうか判断する場合には、臨床による判断を行うべきです。この研究の知見を看護業務に取り入れようとする場合には、その原著論文をレビューして個々の看護の状況への適用可能性を判断することが推奨されます。

 薬剤およびその他の因子と組み合わせて手術が行われた場合、患者に術後せん妄が見られる場合があることはよく知られている。一時的なせん妄が持続的な状態と誤診され、その誤診にしたがってその後治療が行われる可能性があることから、こうしたアウトカムは、高齢患者が手術を受けた場合、特に懸念される。せん妄はあまり解明されていない。しかし、年齢、疾病、心臓手術、整形外科手術などが術後せん妄の危険因子であることが知られている。せん妄は一時的な場合もあれば、長期にわたって続く場合もある。長期のせん妄は認知機能に影響を及ぼす場合もある。また、入院が長引く、費用がかさむ、死亡を含めた合併症のリスクが高まることにもつながる。

 術後せん妄の具体的な原因は特定されていない。しかし、将来、治療法を開発し、長期の有害な認知機能の低下を最小限に抑えるための早期発見方法の研究を開始するための十分なエビデンスは存在している。

 この研究は、単一の実態調査研究の報告であることから、この研究の評価には「AORN研究エビデンス評価ツール」の「エビデンスレベル:研究」を用いた。

エビデンスレベル

 この研究は、非実験的(すなわち観察)研究であることから、「AORN研究エビデンス評価ツール:研究」を用いてエビデンスレベルを「レベルIII」とした。この分類の根拠は以下のセクションで説明する。

介入/操作

 この研究では介入/操作は行われなかった。臨床看護師が患者の認知能力を評価するにあたり、手術後の患者に対する看護せん妄スクリーニングスケール(The Nursing Delirium Screening Scale:NU-DESC)が使用された。

対照/比較群

 この研究では対照群も比較群も使用されなかった。これは、研究に組み入れることができるすべての患者を連続的に観察した研究である。

無作為割付け

 この前向き観察研究では無作為割付けは行われなかった。

エビデンスの質

 「AORN研究エビデンス評価ツール:研究」を用いて、この研究は、エビデンスの質「B」に分類した。この分類の根拠は、以下のセクションで説明する。

AORN Research Evidence Appraisal Tool(AORN研究エビデンス評価ツール)

目的/背景

 研究者は、この研究の目的を、同一の麻酔回復室(postanesthesia care unit:PACU)においてNU-DESCを使ってせん妄の有無を調査することであると述べている。目的とは述べていないが、患者が手術室へ運ばれた際のせん妄の有無の確認にあたって、臨床の看護師がこのツールが使いやすいかどうか、有効かどうかを測定したいとも考えていた。著者は、術後せん妄は研究対象として取り上げられることが増えてきたが、部分的にしか解明されておらず、特に、PACUに運ばれることが多い患者集団ではこの問題の過小評価は依然として深刻であり、しかもこの患者集団は、集中治療室で治療される患者集団よりも多様性が大きいことをよく認識していた。

 著者は、現地の倫理委員会(Kantonale Ethikkommission Thurgau、スイス)から承認を得た。この研究は、ドイツの臨床試験登録と医師会(ハンブルグ)にも登録された。承認機関は、参加者からの書面でのインフォームド・コンセントは必要ないと判断した。この論文で引用された参考文献は31件であり、そのうち14件は5年以上前のものであった。レビューされた文献は、この研究に関係性を有するものと思われた。興味深いことに、研究に使用されている看護ツールは論文の本文でレビューされているが、そのツールの由来を示す参考文献は挙げられていなかった。参考文献の中には、看護雑誌または看護に関連した雑誌はなかった。

無作為割付

 無作為割付は行われなかった。

対照群

 この研究には当てはまらない。

介入

 この研究には当てはまらない。

サンプルサイズ

 一般病棟へ移せる状態になった、PACUにいる1,000人の手術患者の術後せん妄について、看護を行っている臨床の看護師によって評価された。検出力分析は使用されず、2013年5月から6ヵ月のあいだ適格な患者全員について評価が行われた。この期間中、PACUの看護師スタッフが評価できるだけのドイツ語を話せない患者を除いて、PACUに運ばれた患者全員が研究に含まれた。この研究は便宜的標本を使用したため、最終的な分析において参加者一人一人が考慮されていたがどうかは不明である。

データ収集

 看護師が患者を評価する前に、研究者はNU-DESCの使用とせん妄の臨床徴候についてPACUの8人の看護師にトレーニングを行った。看護師に対するトレーニングは、この研究の著者の1人による2回の講義とそれと併せて行った質疑応答から構成された。せん妄評価またはツールの使用について質問が出た場合は、2人の研究者が繰り返しPACUを訪れ、援助した。患者の評価は、外科入院病棟へ移せる状態になったと判断され、PACU在室が終了する時点で実施された。NU-DESCスコアはすべて、人口統計学的データ(年齢、性別など)、外科のどの専門分野であるか、手術術式、麻酔のタイプと麻酔時間とともに記録された。病院の在院期間も記録された。せん妄は、次の5つのパラメータについて患者を評価することによって確認された。

  • 失見当識
  • 不適応な行動
  • 不適切なコミュニケーション
  • 錯覚/幻覚
  • 精神運動制止

 各パラメータのエビデンスは、0〜2のスケールで記録された。すべての項目について点数をつけ、合計2ポイント以上あればせん妄とされた。

 研究者は、変数をコントロールする努力を一切行っておらず、すべての患者は、外科医と麻酔担当者が最善と判断した医療を受けたと報告している。人口統計学的データおよび手術手技に関するデータは記述的にまとめられている。せん妄のある患者群をせん妄のない患者群と比較するため、研究者は、独立したサンプルについて検定を使用するか、定性的データに対してカイ二乗検定を使用した(有意性カットオフ値P < .05)。

 著者は、NU-DESCの妥当性は、他の研究の他の検定に照らして確認したと述べている。この患者集団については、妥当性確認は行われていない。このツールは、研究に関係のない看護師が使用するのにわずか1分しか必要とせず、PACUでの評価に有用である。

結果/結論

 この観察研究は、心臓以外の外科的介入後にPACUで回復した患者におけるせん妄の有無を前向きに調べた研究である。著者は5つの表を添付しており、その説明は、研究の結果と適切に一致していた。最初の2つの表は、分析前データを提示している。1つはNU-DESCの説明であり、もう1つは、PACUから外科入院病棟へ患者が移動できるかどうかの判断基準である。4つ目の表は、すべての患者の人口統計学的データと手術関連データを提示している。3つ目と5つ目の表に分析結果がまとめられている。3つ目の表は、すべての患者についてのNU-DESCスコアであり、5つ目の表は、せん妄がある患者(NU-DESCスコア ≥ 2)とない患者の比較表である。研究者は、主要な知見として、NU-DESCテストを使って確認されたせん妄の発現率が、過去に報告されていた発現率に比べ相対的に低かった(4.3%)と報告している。リスクのある部分集団だけを考慮しても、せん妄の発現率はやはり低かった。具体的な知見は以下のとおりである。

  • 最も一般的な手術は、一般外科手術と整形外科手術で、患者数はそれぞれ302人(30.2%)であった。その次に多かったのが、婦人科手術の患者183人(18.3%)、次いで泌尿器科手術の患者104人(10.4%)であった。
  • 術前に全患者のうち242人(24.2%)が米国麻酔医学会(ASA)術前状態分類Iに分類され、664人の患者(66.4%)が同分類II、83人の患者(8.3%)が同分類IIIに、10人の患者(1.0%)が同分類IVに分類された。
  • 合計43人の患者(4.3%)が、外科入院病棟に移される時点(PACUに入室してから138.4±55.2分後)でせん妄を示した。
  • 被験者集団全体のうち287人の患者(28.7%)が70歳を超えていた。この部分集団だけを考慮すると、30人の患者(10.5%)がせん妄と診断された。
  • せん妄を呈したと報告された患者数は、整形外科(4.6%)と泌尿器科(5.8%)が不釣り合いに高かった。平均年齢はそれぞれ62.4±17.5歳と65.5±16.0歳であった。これらの患者集団は、これらの患者を除いた残りの患者の平均年齢よりもわずかに高齢であった(58.0±18.3歳、P < .05)。
  • 70歳を超える整形外科患者集団(n=111)では、12人の患者がせん妄(10.8%)と診断された。同様の泌尿器科部分集団(n=43)では5人の患者がせん妄(11.6%)と診断された。

 研究者は、せん妄の発現率が低かったという知見について、集団が比較的健康で若い集団であった結果であることを示唆している。研究者は、使用したツールが、迅速でシンプルであるが、当該集団を考慮した場合、最も信頼できるかどうかについても検討した。

制約/今後の研究

 研究者は、この研究についていくつかの制約を指摘している。第1は、せん妄スクリーニングのタイミングがいくぶん曖昧であった点である。2つ目は、手術後のせん妄発症の既知の予測因子を確認していなかった点である。3つ目は、研究者が記しているように、せん妄のある患者とない患者の比較に適切な検出力分析が欠如している点である。

 せん妄の早期発見が、より効果的な治療、有害な結果の低減につながると考えられている。しかし、研究者は、正確な治療方法についてのコンセンサスがないと記している。せん妄は、さまざまな発現様態がありうるため、せん妄の発見は依然として困難である。せん妄は、興奮を伴う明らかに混乱した状態から、活動低下状態まで多岐にわたっている。したがって、研究者は、診断が1人の個人評価を根拠とすべきでないと警告した。研究者は、これらの分野すべてでより多くの研究が必要であると指摘している。

バイアス

 研究者は、この研究と、NU-DESCスコアの使用に言及しているその他の研究とのもう一つの違いとして、この研究では、せん妄評価を個別のトレーニングを受けた心理学者、精神科医または研究担当の看護師ではなく、一般のPACU看護師が手術後のせん妄について評価を行ったことを挙げている。PACU看護師のほうが術後の状況を熟知しているため、PACU看護師はせん妄を判定する独立した調査者に比べ、まだ完全には見当識を回復していない、あるいは手術後まだわずかに通常ほどに鎮静していない人を的確に評価できるのではないかと思われる。研究者が研究の結果を過小評価した可能性があるが、研究者はこの点をしっかりと考慮しており、したがって、評価ツールでBのスコアを与えられた。

妥当性

 他の研究のスクリーニングツールの妥当性確認を除いては、妥当性は議論されていない。

一般化可能性

 この研究は、他のどの集団にも一般化することができない。

評価結果

 「AORN研究エビデンス評価ツール:研究」を用いて、この研究のスコアはIIIBとした。

  • この研究のエビデンスレベルのスコアはIIIとした。これは、この研究が無作為化を行わず、介入、対照のない観察研究であったからである。
  • この研究のエビデンスの質のスコアはBとした。これは、エビデンスの質の多くが適用不可能であった、すなわち、良好であるが、AORN評価ツールの「エビデンスの質」セクションであまり高い評価が得られないためである。
  • IIIBというスコアは、一次的エビデンス源も使用することを条件として、周術期看護師を周術期状況の方針と手技を設計する際の二次的エビデンス源とみなすことが適切であることを示している。

周術期に対する示唆

 この研究の知見は、手術後の患者の認知能力評価手技の開発にとって有用である。認知能力およびせん妄状態の術前と術後の評価の組合せによって、周術期看護師は術後の回復期における患者へのケアを向上させることができる。

 せん妄が確認された患者はPACUから退室した後、適切なケアを受けることができる。これは興味深い研究であるが、すでに他の多くの研究で、術後せん妄の合併症と、それを測定するツールが報告されている。術前の知見と術後の知見を比較する研究は、看護師その他の医療提供者が将来より適切で有効なケアを行い、せん妄を一過性のものにとどめるのに役立つ。高リスク患者を特定することは、より良いケアプランニングにもつながる。記述的、観察的研究は必要であるが、多くの知見からせん妄の発症を認める場合は、ケアの方法を検討すべきである。

 本論文の評価は、ナース・コラボレーションズ(テキサス州ベルネ)コンサルタント兼オーナーであるNancy Girard(PhD、RN、FAAN)が行った。Dr. Girardからは、本論文発表で利益相反の可能性が生じると認識される恐れのある関係は表明されていない。

監修(注釈): 社団法人日本看護協会 洪 愛子
訳: ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
メディカル カンパニー
プロフェッショナルエデュケーション

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