AORNジャーナル11月号(2016)

ご注意ください

Copyright Elsevier Inc., Philadelphia, PA, USA. It is permitted to print and download a single, personal copy of the article (Licensed Product). Reproduction, redistribution, or modification of the Licensed Product is prohibited without the express written permission of Elsevier Inc. Elsevier Inc. assumes no responsibility for translation accuracy or content of Japanese version, which is translated and provided by Johnson & Johnson K.K.
(本記事の著作権はElsevier Inc.にあり、印刷やダウンロードは私的利用目的で1回のみ許可されています。記事の無断複製・転載・修正を禁止します。日本語翻訳・監修(注釈)はジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社によるもので、その内容についてElsevier Inc.は一切の責任を負いません。)

*2013年1月号より、AORNジャーナルオリジナル版の様式が変更になり、月1回の更新となります。

輸血は、膵十二指腸切除術後の重篤な術後感染性合併症の独立危険因子である

エビデンス評価スコア IIIB

(Zhang L, Liao Q, Zhang T, Dai M, Zhao Y.; World J Surg.2016; 40(10):2507-2512.)

エディターズノート

 研究論文を読み、有効な研究の成果を業務に取り入れることは、科学的根拠に基づく周術期看護を確保する上できわめて重要です。AORN研究エビデンス評価ツール「AORN Research Evidence Appraisal Tool」は、周術期看護師が研究を評価する上で有用なツールです。エビデンスのタイプの違いに応じて、次の3つの評価ツール「研究エビデンス評価ツール:研究」、「研究エビデンス評価ツール:要約」、「非研究エビデンス評価ツール」が用意されています。これらの評価ツールは、AORNのガイドラインが準拠するエビデンスを評価するために使用されます。また、単一の研究、複数の研究の要約、非研究エビデンスそれぞれのエビデンスのレベルとエビデンスの質を評価するのに使用することができます。本評価ツールのセクションごとに、この研究に対して何故その評価スコアが付されたのか、またそのスコアが周術期看護業務にどのような意味をもつのかを明確に理解できるよう論じています。個々の研究の知見がある特定の状況において価値があり関連性があるかどうか判断する場合には、臨床による判断を行うべきです。この研究の知見を看護業務に取り入れようとする場合には、その原著論文をレビューして個々の看護の状況への適用可能性を判断することが推奨されます。

 膵臓の腫瘍を除去する主要な外科手技である膵十二指腸切除術は、およそ1世紀にわたり大きな医療機関で広く行われてきた。この手技は最も複雑な腹部手術の1つであることが知られており、死亡率が高い。high-volume center(多症例医療機関)における術後膵十二指腸切除術死亡率はこの10年間で大幅に低下しているが、感染症を含めた術後合併症の発現率はおよそ50%という高いレベルで推移している。そのような術後感染症は重篤で、手術部位感染症(SSI)、菌血症、肺炎などである。これらの感染症が在院期間を長引かせ、医療費を押し上げ、場合によっては死を招く可能性があることが知られている。さらに、大手術後、輸血が原因で感染性合併症を発現することが報告されている。しかし、周術期輸血と膵十二指腸切除術後の重篤な感染症発症の関係は明確になっていない。こうしたことから、この後ろ向き研究は、膵十二指腸切除術後に発現する重篤な術後感染症の原因となる危険因子を分析することを目的として実施された。これが単一の研究の報告であることから、この研究の評価には「AORN研究エビデンス評価ツール」の「エビデンスレベル:研究」を用いた。

エビデンスレベル

 この研究は、非実験的(すなわち観察)研究であることから、「AORN研究エビデンス評価ツール:研究」を用いてエビデンスレベルを「レベルIII」とした。この分類の根拠は以下のセクションで説明する。

介入/操作

 この研究では介入も操作もなかった。

対照/比較群

 この研究では対照群も比較群もなかった。

無作為割付

 この研究では無作為割付は行われなかった。

エビデンスの質

 「AORN研究エビデンス評価ツール:研究」を用いて、この研究をエビデンスの質「B」に分類した。この分類の根拠は、以下のセクションで説明する。

AORN Research Evidence Appraisal Tool(AORN研究エビデンス評価ツール)

目的/背景

 この研究は、中国、北京の大学病院で2013年1月から2014年12月にかけて行われた。研究の目的は明確に述べられており、リサーチクエスチョンは明快であった。膵十二指腸切除術後、研究者はSSI、菌血症、肺炎などの重篤な感染症の術後発現の原因となる危険因子の分析を試みた。研究者は、これらの重篤な感染症の発症の原因となる術前、術中の因子の多変量解析を行った。施設内倫理委員会の承認は、この研究には当てはまらなかった。研究者は、リサーチクエスチョンにおいて何が既知であり、何が未知であるかを特定し、知識に欠落がある場合は、それに対しこの研究がどのように対処するかを述べている。文献レビューは適切であり、リサーチクエスチョンに関係する公表されている最新の研究が挙げられているが、挙げられている26件の文献のうち16件(61.5%)が6年以上前に発表されており、文献はいくぶん古い印象がある。研究者は、膵十二指腸切除術後の術後感染症の正確な危険因子が何かについては定説がなく、いくつかの研究が以下のような複数の危険因子を挙げていると記している。

  • BMI > 25
  • 栄養不良
  • 手術時間
  • 膵液瘻

さらに、著者は、いくつかの研究で非膵臓手術における重大な合併症、軽微な合併症のいずれの場合も、輸血が重大な危険因子に挙げられていると記している。輸血が膵がん患者の転帰に及ぼす影響については定説がなく、ある研究が、膵十二指腸切除術後の赤血球輸血と30日死亡率とのあいだに線形の関係が見られると報告している一方で、別の報告は感染性合併症の発現率の上昇がみられないと報告している。さらに、特定の患者に対し膵十二指腸切除術を実施したところ輸血なしで成功したという報告もある。しかし、ある最近の研究から、周術期輸血のかなりの部分があらかじめ定められた基準を満たしていないことが明らかになった。

無作為割付

 この研究には該当しない。

対照群

 この研究には該当しない。

介入

 この研究には該当しない。

サンプルサイズ

 212人の患者のサンプルサイズは、この研究デザインには十分であった。12ヵ月の研究期間のあいだに膵十二指腸切除術を受けた参加者のうち分析から除外された参加者が存在することを示す記載はなかった。この数は、12ヵ月の期間中に医療機関で膵十二指腸切除術を受けた患者数を表しており、これは便宜的標本に相当する。

データ収集

 研究者は、データ収集の方法を明確に述べている。研究者は、膵十二指腸切除術を受けた患者の記録をレビューした。この記録には以下の周術期データが含まれていた。

  • 人口統計学的データ(すなわち年齢、性別、BMI
  • 栄養スクリーニング・スコア 
  • 臨床症状
  • 術前の臨床検査結果
  • 胆道ドレナージ術
  • 切除タイプ
  • 手術による出血量
  • 赤血球輸血(実施、不実施)
  • 組織病理検査所見

 手術中、または手術から24時間後にヘモグロビン濃度が10 g/L未満である、あるいは、ヘマトクリットが30%未満であった場合、輸血の適応となった。膵液瘻は、術後3日目に血清アミラーゼ濃度が正常値上限の3倍を超える値にまで上昇するドレナージと定義された。手術部位感染は、CDC(the Centers for Disease Control and Prevention:疾病管理予防センター)の全米病院感染サーベイランスシステムの定義にしたがって診断された。菌血症は、高熱(38.5℃[101.3°F]を超える熱)での血液培養陽性と定義され、肺炎は、胸部X線検査で肺浸潤を伴う肺障害を認め、かつ喀痰培養陽性として定義された。重篤な感染症が疑われた場合は、排液、創傷、血液または痰の検体が収集、培養された。

 研究者は、独立危険因子を特定するため単変量解析と多変量解析を行った。統計分析はすべて、ソフトウェアSPSS Ver. 13.0を使って行われた。連続変数は、平均値±標準偏差で表され、検定を用いてグループ間の平均値が比較された。単変量解析は、ピアソンのカイ二乗検定を用いて行われた。多変量解析のロジスティク回帰モデルを用いて、独立危険因子が決定された。P値 ≤ .05が、統計学的に有意であるとされた。

結果/結論

この論文には、5つの表が添付されており、本文と一致していた。表はそれぞれ以下の情報を提示している。

  • 患者の特性と周術期のアウトカム
  • 重篤な感染症に関連した周術期因子の単変量解析の結果
  • 重篤な感染症に関連した危険因子の多変量解析の結果
  • 重篤な感染症に関連した術前および周術期因子の単変量解析の結果
  • 重篤な感染症に関連した術前および周術期因子の多変量解析の結果

膵十二指腸切除術を受けた212人の患者のうち78人(37%)が感染性の術後合併症を発症した。61人の患者(29%)が重篤な感染症を発症した。47人の患者(22%)がSSIを発症し、19人(9%)が菌血症を発症し、13人(6%)が肺炎を発症した。1人の患者(0.5%)が、急激な敗血症性ショックの結果、多臓器不全で死亡した。重篤な感染症を発症しなかった患者と重篤な感染症を発症した患者における膵液瘻および輸血の差は、統計学的に有意であった(P < .01)。多変量ロジスティック回帰分析から、膵液瘻(P < .01、オッズ比[OR]=9.763)と輸血(P=.003、OR=3.126)が、重篤な感染症と独立して相関していることが示された。膵液瘻のない患者は、重篤な感染症の有無によって、2つのグループに分けられた。33人の重篤な感染症患者のうち、23人の患者がSSIを発症し、15人の患者が菌血症を発症し、10人の患者が肺炎を発症した。さらに、術前因子と術中因子の多変量解析から、輸血が重篤な感染症の発症に有意に関連していることが判明した(P < .01、OR=5.831)。この試験で最も頻繁に特定された微生物はエンテロバクター属であり、腸球菌種がそれに続いた。研究者は、患者の37%において膵十二指腸切除術後、感染性合併症が見られたと報告している。これは、過去の報告と一致している。さらに、研究の50%未満の患者が、周術期輸血を受けた。著者は、研究の結果は、輸血が膵十二指腸切除術後の重篤な感染症の最も有力な独立危険因子であり、これを良質な指標とみなすべきであることを示唆していると結論づけている。

制約/今後の研究

 研究者は、この研究について以下の3つの制約を挙げている。

  • この研究が後ろ向き研究であるため、選択バイアスを回避することができなかった。
  • 輸血の基準に関する医療機関の明確なガイドラインがあったものの、外科医または麻酔医がその場にいることで輸血の使用が影響を受けた可能性がある。
  • 術後感染症は輸血量と関係している可能性があるが、この点がこの研究において考慮されなかった。

バイアス

 文献レビューにより、感染性合併症の高い発現率と関連した最も一般的な独立危険因子として膵液瘻が報告されていることが明らかになった。そこで、研究者は研究の結果のゆがみを低減しようとした。研究者は、膵液瘻が発生した場合、発生しなかった場合の両方について、重篤な感染症の発現率別にデータを分析した。研究者は、膵液瘻患者の重篤な感染症の発現率が61%であり、膵液瘻のない患者の3倍も高いことを発見した。さらに研究者は、輸血が、膵液瘻以外の重篤な感染症の発現率と有意に関連していたと報告している。

妥当性

 介入に対する予防措置は講じられなかった。妥当性を脅かす要素は考慮されず、研究デザインからしてそのような脅威は可能でなかった。

一般化可能性

 この研究の結果は、他の集団に対して転用または適用できない。結果は、膵十二指腸切除術を受けた患者にしか当てはまらない。

評価結果

 「AORN研究エビデンス評価ツール:研究」を用いて、この研究のスコアはIII Bとした。

  • この研究のエビデンスレベルのスコアはIII とした。これは、この研究が後ろ向きの、非実験的研究であったからである。
  • この研究のエビデンスの質のスコアはBとした。これは、この研究が、研究デザインにとって十分なサンプルサイズを有し、合理的な程度に一貫性のある結果を提示し、輸血が膵十二指腸切除術の後の重篤な感染症の最も有力な独立危険因子であることを示唆するに至ったからである。
  • III Bというスコアは、周術期看護師が周術期状況に対する方針と手順を策定する際、他の一次的エビデンス源の裏付けがある場合に限り、このエビデンスを二次的エビデンス源とみなすことが適切であることを示している。強さ又は質が低いからといってその研究がエビデンス源として必ずしも劣っている、あるいは許容できないというわけではない。また、評価が低いからといって必ずしもエビデンスが重要でない、あるいは関連性がないことを意味するわけではない。

周術期に対する示唆

 膵十二指腸切除術後の術後感染性合併症の発症は、依然として重要な問題である。この研究の結果は、輸血を受けた患者が重篤な感染症を発症するリスクは、輸血を受けない患者に比べ3.2倍であることを示している。さらにこの結果は、重篤な感染症を発症した患者の出血量は、重篤な感染症を発症しなかった患者の出血量とほとんど同じであったが、非感染群に比べ、重篤な感染症の群の方が、輸血を受けている割合が大きかった(61.7%対38.4%)ことを示している。この発見は、輸血が、膵十二指腸切除術後の重篤な感染症発症の最も有力な独立危険因子であることを示唆している。

 複雑な膵臓手技において重度の出血に対応するため輸血は必要であるが、膵十二指腸切除術を受けた患者における周術期輸血のかなりの部分があらかじめ設定された基準を満たしていないことが報告されている。したがって、輸血の適切さの評価に基づいて厳格な基準を定める必要がある。周術期輸血に制限を加えることが望ましい。膵臓手術の輸血は、出血、術前の献血、再輸血を最小限に抑えることによって低減できる可能性がある。周術期看護師は、輸血が膵十二指腸切除術後の重篤な感染症に対する独立危険因子であることを示唆するこの所見を確認するためのさらなる研究をいつでも支援し参加できる状態であるべきである。

 編集者注:SPSSは、IBM社(アーモンク、ニューヨーク州)の登録商標である。

 本論文の評価は、ニューヨークメソジスト病院感染予防部長、SUNY医療関連職カレッジ(ニューヨーク州ブルックリン)臨床准教授であるGeorge Allen(PhD、MS、BSN、RN、CNOR、CIC、FAPIC)が行った。Dr. Allen からは、本論文発表で利益相反の可能性が生じると認識される恐れのある関係は表明されていない。

監修(注釈): 社団法人日本看護協会 洪 愛子
訳: ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
メディカル カンパニー
プロフェッショナルエデュケーション

ご注意ください

このページは日本に在住する医療従事者の方々を対象に作成されたものです。従いまして、一般の方のアクセスはご遠慮下さいますようお願い致します。