膝関節やその周囲の病気には変形性膝関節症、半月板損傷、膝靭帯損傷などがあります。このうち、膝関節の軟骨が弾力性を失い、使いすぎによるすり減りや関節の変形が起こることでこわばりや痛みなどの症状が出るのが変形性膝関節症です。加齢が主な原因ですが、靭帯や半月板損傷などのケガが原因となることもあります。
膝の病気やケガの治療において重要となるのが「骨質」です。年齢とともに骨質は低下してくるため、痛みなどの症状を感じたら、できるだけ早く整形外科を受診しましょう。患者さんの症状や膝の状態に合わせて適切な治療を受けることで痛みが軽減し、QOL(生活の質)を保つことができると言われています。
膝関節は大腿骨(太ももの骨)と、脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(膝のお皿)の3つの骨で構成され、大腿骨と脛骨がグラグラしないように前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靱帯、外側側副靱帯の4つの靱帯でつながっています。
内側・外側側副靱帯は膝関節の両側にあり、膝の左右の動きを抑えて膝関節の安定性を高めています。一方の前・後十字靱帯は大腿骨と脛骨の間で交差しており、前十字靭帯は脛骨が前へ出ないように、後十字靱帯は脛骨が後ろへずれないように動きを抑制しています。
これらの靱帯が耐え切れないほどの強い力が加わって、伸びたり切れたりした状態を膝靱帯損傷といい、膝に加わった力の向きによって損傷する靭帯が違ってきます。
【膝関節靭帯の構造】
前十字靭帯損傷はスポーツによる膝外傷の中でも頻度が高く、バスケットボールやサッカー、スキーなどでのジャンプの着地や急な方向転換、急停止時に発生することが多いとされています(非接触損傷)。タックルを受けるなど相手との接触によって起こる接触損傷や、交通事故でも起こります。
受傷時は激しい痛みやブツッという断裂音(ポップ音)を感じることがあります。また、靭帯からの出血により関節内に血液がたまり、関節の腫れを伴います。受傷後は徐々に症状が改善し数週間で歩けるようになりますが、膝の不安定感や、膝が抜けるような感じ(膝くずれ)が生じることもあります。
【前十字靭帯の損傷】
安静にしていると痛みや腫れは引いて日常生活に支障はなくなりますが、靭帯は切れたままです。適切な治療を受けずに放置すると半月板損傷や軟骨損傷を引き起こし、慢性的な痛みや腫れが出現する可能性があります。
前十字靭帯は関節内にある靭帯なので血流が乏しく、一度切れてしまうと自然治癒の可能性はほぼありません。中高齢者には保存的な治療が選択されることもありますが、保存的な治療では前十字靭帯の機能回復は期待できないため、特に競技スポーツに復帰したい方には手術が勧められます。
膝動揺性抑制装具(サポーター)を装着して、痛みのない範囲で関節の動きを改善する可動域訓練を行い、筋力低下を最小限にとどめるようにします。
損傷した靱帯の代わりに、患者さん自身の腱(自家腱)を移植する「前十字靭帯再建術」が一般的です。手術は関節鏡を用いてできる限り低侵襲で行われます。
前十字靭帯が損傷していても日常生活では支障がないことが多く、競技スポーツに復帰しない場合、手術は必須ではありません。ただ、靱帯が切れた状態で長期間過ごすと、徐々に膝がずれたり、摩耗したりすることがあります。膝くずれを繰り返すことで膝の機能が悪化し、半月板損傷や変形性関節症に進むことも多いことから、競技スポーツをされない方も、長い目で見れば靭帯再建術で治したほうがよいとされています。いずれにしても医師とよく相談しましょう。
一般的には術後1週間ほどは車いすを、その後は松葉杖を使用します。術後2週間ほどで松葉杖が取れると歩いて退院となり、退院後は通院でのリハビリテーションを行うといわれています。
スポーツ活動に復帰するには、術後のリハビリテーションが重要です。リハビリテ―ションの期間は3~6ヵ月程度、スポーツ復帰までには6ヵ月以上と時間がかかりますが復帰率は非常に高く、手術治療により60〜70%の患者さんが受傷前のスポーツレベルまで復帰できるとされています。
半月板損傷は、膝関節内にある半月板に亀裂が生じたり、欠けたりした状態です。若年者から高齢者まで発症し、慢性化すると変形性膝関節症を引き起こす可能性もあるため、適切な診断と治療が重要です。
膝関節の骨の軟骨は加齢に伴って弾力性を失い、使いすぎによるすり減りや関節の変形が起こります。進行すると歩行が困難になることもある変形性膝関節症は、早期の治療開始が重要となります。