高齢化が進む日本。高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口の割合)は世界で最も高く、将来的には、国民の2.6人に1人が65歳以上になる社会が到来すると推計されています1)。そのような中、増加傾向にあるのが骨粗しょう症です。骨粗しょう症の患者数は推計約1300万人にも上ります2)。「介護」の視点で見た場合、要介護となる主な原因の第3位は「骨折・転倒」であり3)、高齢化の進行とともにその対策は社会的にも大きな課題となっています。
骨粗しょう症は、日常生活で気がつかないうちに骨折したり、知らないうちに症状が悪化したりすることもあるため、骨粗しょう症についての正しい知識と予防法を知ることは大変重要です。
ここでは、10月20日の「世界骨粗鬆症デー」に先立ち2024年10月に開催したプレスセミナー「今だから知っておきたい骨粗しょう症」の内容をダイジェストでお伝えします。
このセミナーでは、九段坂病院 診療部長兼整形外科部長 大谷 和之先生より、「骨粗しょう症のちょっと怖いお話」と題して、骨粗しょう症の基礎知識をはじめ、日常に潜む骨折リスクや治療の現状などについて講演いただいたほか、ジョンソン・エンド・ジョンソン フィットネスセンターで発案した予防エクササイズもご紹介しました。本セミナーは、人生100年時代を迎える社会において「主体的な医療・健康への関わり」をサポートすべく展開している「My Health, Myself」プロジェクトの一環で行いました。
エクササイズは日常に取り入れやすいものですので、この記事の下部にある動画も参考にしながら実践してみてください。
【骨粗しょう症と日本の現状】
WHOの定義によると、骨粗しょう症とは「骨の量が減って骨組織の微細構造が悪くなり、骨折しやすくなっている状態」を指します。つまり、骨がスカスカになって折れやすくなる病気です。診断は、「DXA法」という方法で行われ、腰椎と大腿骨の骨密度を測定し、どちらかの値が若年者の平均値の70%以下であった場合に診断が確定します。日本での患者数は、男性が約300万人、女性が約980万人で、女性に圧倒的に多くみられ、特に70代以上の女性では人口の半数以上が骨粗しょう症という状況です2)。
女性の骨密度をみた場合、18~20歳で最大の骨密度に達し、50歳頃までその量を維持しますが、閉経後に急激に低下するのが特徴です2)。一方、男性の場合は緩やかな低下にとどまります。ただし、一度骨密度が減少してしまっても、諦めることはありません。適切な治療(薬物治療)により骨密度を改善できる可能性はあります。骨粗しょう症の診断がついたら早期に治療を開始することが非常に重要です。
【日常生活の中に潜む骨折リスク】
骨粗しょう症になると、日常のちょっとした動きでも骨折しやすくなります。実際に、植木鉢を持ち上げただけ、家の中で尻餅をついただけで骨折するケースがみられます【図1】。特に多いのが室内での転倒で、転倒発生場所の6割以上を占めています。転倒場所は、浴室、庭、寝室、玄関、階段など、日常生活空間が中心です4)。
骨折は介護へとつながることもあります。実際に要介護になる原因をみると、「骨折・転倒」は認知症、脳卒中に次いで第3位です3)。しかし、骨折は適切な対策により防げる可能性がありますので、骨粗しょう症予防に取り組み、将来の要介護リスクを減らすことが重要になります。
【代表的な骨折とその特徴】
骨粗しょう症による代表的な骨折には、以下の3つがあります。
骨粗しょう症による代表的な骨折とその特徴に関する詳細はこちらで解説しています。
URL: https://www.jnj.co.jp/jjmkk/general/fracture/osteoporosis/details
【腰曲がりがQOLに与える影響】
骨粗しょう症によって背骨の後弯変形(腰曲がり)が重度になると、姿勢異常や立位バランスの不良により、日常生活に大きな支障をきたします。同じ姿勢での腰痛、立位保持困難、歩行困難などの身体的問題に加え、容姿の変化による社会性の低下やうつ症状など、精神的な問題も引き起こす可能性があります。また、骨の変形により肋骨が胃を圧迫し、逆流性食道炎を引き起こすことも少なくありません。これにより食欲が低下し、さらなる体重減少を招くという悪循環に陥ることもあります。
研究によると、脊柱変形は関節炎や慢性肺疾患、糖尿病、うっ血性心不全などの慢性疾患よりもQOLを低下させるとされています5)6)。さらに、米国からの報告では、脊柱変形のある高齢女性は入院のリスクが高く、長生きできる人の割合が少ないといわれています7)。
【骨粗しょう症予防のためにできること】
骨粗しょう症の予防には、年代に応じた取り組み2)が重要です。
<若年期>健康的な生活習慣を心がけ、骨密度がピークとなる20歳前後での最大骨量を高めるように努める。これは老後にむけた「骨の貯金」として重要です。
<中高年期>喫煙・過度の飲酒を避け、定期的な検診を受ける。
<全年代>適切な食事と運動を心がける。
運動 | 下肢の筋力と体幹の筋力をしっかり鍛えて転倒を予防することが重要です。 |
食事 | 骨粗しょう症の予防に推奨される食品と過剰摂取を避けた方が良い食品を挙げますので参考にしてみてください。
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【CHECKしてみよう!あなたの骨粗しょう症による骨折リスクはどのくらい?】
WHO提唱のFRAXという評価ツールを使用することで、将来の骨粗しょう症による骨折リスクを予測することができます。これは年齢、BMI、過去の骨折歴、家族歴、生活習慣などから骨折リスクを算出するもので、骨粗しょう症の治療や予防介入の必要性を判断する際に有用なツールです。
詳しくは、骨粗鬆症財団「骨折評価ツールFRAX」をご覧ください。
ジョンソン・エンド・ジョンソン フィットネスセンターでは、労働力の高齢化や転倒リスクの増加を踏まえ、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ 統括産業医 岡原 伸太郎先生の監修のもと、独自の予防エクササイズを発案しました。現在、日本の労働者の22%が60歳以上となっており8)9)、職場での安全対策の重要性が増しています。特に、転倒による労働災害は年齢とともに増加傾向にあり、50歳以上の女性の場合、転倒災害のうち7割以上で骨折が発生しています10)。
このような背景から、厚生労働省は「第14次労働災害防止計画」において、転倒予防対策として運動プログラムの導入や骨粗鬆症健診の受診勧告を推奨しています。同社では、従業員一人ひとりが「世界で最も健康的な従業員」となることを目指し、ヘルス&ウェルビーイング推進施策の一環としてこの予防エクササイズを社員向けプログラムに導入しました。
職場や自宅でも簡単に取り入れることができるエクササイズですので、ぜひ参考にしてみてください。
<エクササイズの構成>
骨へ刺激を与えることで骨密度の維持・向上を、安定した歩行や転倒時の防御に必要な筋肉を鍛えることで転倒予防に繋げていくことを目的としています。
これらのエクササイズは、無理のない強度で1日10~20回程度×3セットを目安に、6ヶ月以上継続することで骨に対する効果が期待できます。特別な器具を必要とせず、日常生活の中で気軽に実施できる点が特徴ですので、継続して骨粗しょう症予防につなげていきましょう。
※エクササイズに関する注意点
エクササイズを実施される方は、安全に行えるよう、体力や体調に配慮し、転倒などに十分注意して、無理のない範囲で行ってください。
弊社は、エクササイズ中に発生した怪我や事故について一切の責任を負いかねます。
エクササイズの詳しい動きは、以下の動画でご確認いただけます。
<「My Health, Myself ―私の健康のために、私ができること。」 プロジェクトについて>
ジョンソン・エンド・ジョンソン メドテックでは、より多くの方がヘルスリテラシーを身につけ、主体的に医療・健康に関われるようサポートすることを目的として、「My Health, Myself ― 私の健康のために、私ができること。」 プロジェクトを推進しています。その取り組みの一環として、私たちはさまざまな疾患の啓発活動を行っています。
詳しくはこちらのサイトをご覧ください。
URL: https://www.jnj.co.jp/jjmkk/my-health-myself
<文献>
1. 内閣府「令和6年版高齢社会白書(全体版)」第一章 高齢化の状況(第一節 (2))
(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf)
2. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版.ライフサイエンス出版
3. 厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査の概況」 (Ⅳ介護の状況)
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/index.html)
4. 消費者庁「10月10日は転倒予防の日、高齢者の転倒事故に注意しましょう!-転倒事故の約半数が住み慣れた自宅で発生しています-」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_040/assets/consumer_safety_cms204_201008_01.pdf)
5. F Pellisé, et al. Eur Spine J. 2015 Jan;24(1):3-11.
6. F Schwab, et al. Spine (Phila Pa 1976). 2003 Mar 15;28(6):602-6.
7. K E Ensrud, et al. J Am Geriatr Soc. 2000 Mar;48(3):241-9.
8. 総務省統計局「2024年8月 労働力調査 II-2-1年齢階級,産業別就業者数」
9. 厚生労働省「令和5年労働災害発生状況の分析等」
(https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001099504.pdf)
10. 厚生労働省「第14次労働災害防止計画の概要」
(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001287386.pdf)