加齢が原因で起こる変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)は、立ち上がる、歩く、階段の昇り降り、床に座るなどの日常生活の行動に影響がでるほどの痛みがあり、進行すると場合によっては歩けなくなってしまいます。悪くならないうちに早めに治療することが大切です。症状によってさまざまな治療方法の選択肢がありますが、そのなかでも人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)という手術について解説します。
高齢になると筋力の低下などにより体のさまざまな部分が思うように使えなくことが多くなりますが、ひざも影響がでやすい部位の一つです。なかでも、変形性膝関節症は、骨と骨でつながっている関節が炎症をおこしたり、ひざの軟骨がすり減ったりするなどの原因で痛みが生じる病気です。歩く、車の運転、立ち続けるなどの行動ができなくなるなどの痛みがあり、進行すると場合によっては歩けなくなってしまいます。
変形性膝関節症は、骨に注目されがちですが、骨と骨をつなげる重要な役割である靭帯(じんたい)にもやさしい治療方法を選ぶことが大切だといわれています。
ひざの関節には4つの靭帯があり、ひざの曲げ伸ばしのときに伸縮して骨を支えるなどして、それぞれの部分で骨同士がずれたり、動きすぎてしまうことがないよう私たちの日常生活での動きを支えてくれています。
人工膝関節置換術は、炎症やすり減りなどで傷んでしまった軟骨などの骨の部分を、耐久性にすぐれた金属やポリエチレンでできた軟骨や骨の代わりをしてくれる人工の関節に置き換える手術です。ひざの状態によって手術もさまざまですが、人工膝関節置換術は人それぞれの靭帯を含めた足全体のバランスを考えた手術であることが特徴です。治療は、変形した骨を治療するだけなく、手術後、痛みが改善し、日常生活を送りやすくするという点も重要になるため、その人の足全体のバランスを整えるという観点も大切です。
人工関節に置き換える手順と手術の流れについて
人工関節に置き換える流れは大きく分けて3つとなっていて、人工膝関節置換術の手術では4つに分けられます。実際に手術をしている時間は1~2時間くらい、手術前後の準備時間もあわせると、病室を出てから戻るまで、3~4時間くらいかかります※1。
人工膝関節置換術は、患者さんにとってより安全で正確な手術ができるよう、手術専用のロボットを使うケースもあります。
【人工関節に置き換える手術】
【人工関節置換術の手術の流れ】
手術を助けてくれる手術用ロボットとは?
手術用ロボットは、ロボットが自動で手術をするのではなく、医師がロボットを操作します。
人工膝関節置換術では、人工関節を設置するために傷んだ骨を削って整える際に、この手術用ロボットを使います。
手術用ロボットを使うことでより正確に削って整えやすくなります。また、靭帯バランスを考慮しつつ、骨をきれいに削り、人工関節を正確に設置しやすくすることができます。
人工膝関節置換術の入院から退院までの流れは5つのステップとなります。
入院期間は平均2~3週間くらい※2といわれています。
手術後は、1~2週間程度で痛みが軽減します。そのなかでも軽い痛みや違和感が残る方もいますが、ほとんどの方はひざの痛みが解消され、多くの日常動作を行えるようになります。
手術後は平均として翌々日、早い方だと手術翌日から歩くことができるよう※2になります。また、手術後は基本的に手術前と同じくらい、それ以上にひざを曲げることができるよう※2になりますが、手術前のひざの曲がりが悪い方は、手術後も曲がりが悪いケースが多いです。一日でも早くひざを治すためにも、ひざの痛みを放っておかず、悪くなるまえに早めに医療機関を受診しましょう。
人工膝関節置換術の手術後、ほとんどの方は1週間以内に杖を使って歩くことができるようになり、激しい運動やスポーツを避ければ、通常の日常生活にはほぼ支障はないといわれています。また、退院後は、一種の機械でもある人工関節に問題がないかを確認するため、定期的な通院をおすすめされています。
退院後は「気をつけた方がよい動作」「できない動作」に注意しながら、痛みであきらめていたことができるようになるでしょう。
監修いただいた先生
勝田紘史 先生
医療法人はぁとふる 副理事長
上本町 運動器ケアクリニック 院長
※1 手術時間は病院・主治医によって違います。詳細は主治医にご相談ください。
※2 病院や症状によって異なるため、主治医にご確認ください。