土屋「乾癬患者さんの約7割が衣服にストレスを抱えていた」*1
坂野「ファッションで楽しみを伝えたい」。父の死がきっかけに
――Johnson & Johnson Innovative Medicineはジョンソン・エンド・ジョンソンの医薬品部門ですが、製薬会社がなぜFACT FASHIONのようなプロジェクトを立ち上げたのでしょうか?
土屋 FACT FASHIONは乾癬(かんせん)という慢性の皮膚疾患の患者さんの声から生まれたプロジェクトで、実はファッションブランドの名前でもあります。
日本では、40~60万人の乾癬患者さんがいるとされています*2,*3。皮膚が盛り上がってかさぶたのようになり、皮膚片がフケのようにボロボロと落ちたりします。(鱗屑・りんせつ)症状が見た目に現れるため、精神的な負荷が大きい疾患です。
当社の調査では、患者さんの約7割が衣服にストレスを抱えていることが分かっています*4。私たちは、製薬会社として薬を患者さんにお届けするだけではなく、薬だけでは解決できない、患者さんの課題に対する取り組みを行っています。その一環として、乾癬の認知向上と患者さんの負担軽減を目指して立ち上げたプロジェクトが「FACT FASHION」です。


――坂野さんが所属するアダストリアは「グローバルワーク」「ニコアンド」など30を超えるブランドを展開するファッション企業です。今回どうしてインクルーシブファッションプロジェクトを立ち上げたのでしょうか?

坂野 アダストリアには事業提案できる「Project A(プロジェクトエー)」という制度があります。私はもともとビッグデータを解析するデータアナリストなのですが、5年前に亡くなった父の介護がきっかけでこのインクルーシブファッションプロジェクトを企画したんです。
父は心筋梗塞や脳梗塞などの疾患で入退院を繰り返していました。最後の病となった虫垂がんでは、要介護5と重度の介護生活になり、最後は会話もできなくなり、亡くなりました。64歳でした。
亡くなる前、父はファッションを楽しむ余裕などとてもありませんでした。私が当時の経験を振り返ることができるようになった時、「ファッションで父を楽しませることができたのでは」と考えるようになりました。
もともと、会社のミッションとして「Play fashion!」とい思想がアダストリア内には根付いています。しかし、本当に“すべての人”にとっての「Play fashion!」になっているのか?と父の介護がきっかとなり自問自答するようになりました。
病気でも障がいがあっても、誰もが着てみたいと思える服を着ることができたら、本当の意味で一人一人の毎日に「もっと楽しい」という選択肢が増えるはずです。そこで全ての人がファッションを楽しめるプロジェクト「Play fashion! for ALL」を企画しました。

坂野 「デザインや縫製を工夫するだけで心地良い服に」
土屋 「『服を着ることがワクワクするようになった』 患者さんの声が励みに」
――プロジェクトがスタートしてどのように進めていったのでしょうか。
坂野 特例子会社のアダストリア・ゼネラルサポートの持病や障がいがあるメンバー3人にヒアリングしながら一緒に取り組みました。長期入院を繰り返してきた女性が望んだ服は、入院中もワクワクするようなパジャマセット。車いすの男性は「白い服を着たいけれど、車いすのタイヤに袖が触れると汚れてしまうので、あきらめていた。白い服を着てみたい」と話してくれました。また、上肢下肢機能障害の男性からは「低身長の自分にぴったりの服を作りたい」という要望がありました。


チームで取り組みを進めていくうちに、長さや縫い方を変えて工夫するだけで好きなファッションを心地よく着ることができるのだと気付きました。
例えば今日土屋さんに着ていただいているシャツは、車いすを動かす時に袖が汚れてしまわないように、タイヤに当たる部分を切り替え、袖丈を短めにしています。実際に着た人たちからは「ファッションは自分には遠いと思っていたけれど、体形に合った服が完成した時は本当に嬉しかった」という声が上がりました。

土屋 2019年にプロジェクトがスタートし、患者会などの乾癬患者さんからお話を伺う機会が何度もあったのですが、衣服に対してこれほどまでに心身の負担を感じていらっしゃるのかと驚くほどでした。
ただ、当社は製薬会社であるため、洋服は作れません。そんな中でこのプロジェクトに共感してくださったアパレルブランド「メゾンスペシャル」さんとご縁があり、協力いただけることになりました。
完成した服は、患者さんが心地よく着れる工夫を施しました。例えば肩にはツルツルした滑りの良い生地を使っています。肩に落ちた鱗屑がたまらないようにするためです。また、乾癬の患者さんは関節炎を発症することもあり、ボタンの着脱がしやすいようにボタンホールの裏の部分にも滑りが良い生地を採用しました。
-
ON NOW
-
ON NOW
2020年はベーシックなデザインを発表し、患者さんからは「服を着ることがワクワクするようになった」という声をいただきました。一方で、乾癬患者さんの声を反映した機能的な服と、疾患のない方でも手にとってもらえるデザインのバランスをとることが難しいと感じました。
今日坂野さんが着ていらっしゃる服が2021年に発表した服になります。
――プロジェクトを進める中で課題もあったと思います。その課題にどう対応し、解決したのでしょうか。
坂野 例えば今「ドットエスティ」というアダストリアの公式WEBストアでは「前後2wayで着られる服」を特集しています。ダウン症や視覚障がいの人の中で、「洋服の前後が分かりにくい」という声がありました。そこで、前後どちらで着ても様(さま)になる服を提案しました。今はこういった着やすい服や機能的でおしゃれな商品に気付いてもらう、探しやすくするという仕組みを考えています。
土屋 2020年にファクトファッションを発表した際は、製薬会社とファッションという異色の組み合わせにインパクトがあり、多くのメディアで紹介していただきましたが、引き続きより多くの方に乾癬を知っていただく必要がありました。そこで2年目になる2021年は、患者さんの課題と方向性が分かるような「皮膚片の落下防止」や「着脱がラク」といったアイコンを作り、より多くのアパレルブランドで使っていただけるようなタグを作りました
坂野 すべての人がファッションを楽しめる世界に
土屋 医薬品の枠を超えた活動を続けたい
――最後に坂野さん、土屋さんがそれぞれのプロジェクトで感じたこと、今後の展望についてお話いただけますか。
坂野 これまでの服作りは、サイズやデザインがブランド側によって決められていましたが、少しずつお客さまの声をしっかりと聞いて生かす取り組みが広がっています。
今回のようなインクルーシブな目線を取り入れた服づくりを増やしたり、よりファッションを楽しめる仕組みをつくったりしていくことで、すべての人がファッションを楽しめる社会を目指したいと考えています。ただ、社内外ともにまだまだ知られていないので、専属広報チームを立ち上げ、SNSなどを活用して周知を進めています。
さまざまな業界の方と一緒に取り組んでいきたいです。
土屋 ファクトファッションプロジェクトの目的は乾癬の認知を広げ、誤解や偏見に悩む患者さんの精神的負担を軽減することです。当社は、ファッションに限らず、様々な領域で「Beyond Medicine」という医薬品の提供を超えた活動を行っています。これからも多くの領域で、患者さんに貢献していきたいと考えています。
【FACT FASHIONについて】
慢性の皮膚疾患である乾癬が理由でファッションを楽しめなかった人たちの事実(FACT)に基づき、Johnson & Johnson Innovative Medicineが2020年に製薬会社として患者会・アパレルブランドと共に立ち上げた日本初の衣服ブランド※1です。乾癬患者さんの心身の悩みを軽減すると同時に、衣服をきっかけに乾癬に対する理解や誤解の解消を促進することを目的としています。2つの乾癬患者団体(「一般社団法人INSPIRE JAPAN WPD乾癬啓発普及協会」、「NPO法人東京乾癬の会P-PAT」)と連携し、患者さんの衣服に対する満たされないニーズを定期的なヒアリングを行うなど、乾癬患者さんの声から生まれた今までにない衣服ブランドとして販売を開始しました。
【Play fashion! for ALL について】
「スタンダードを、変えていこう、広げていこう。」をコンセプトに、社内事業提案プロジェクトから発足した、アダストリア発のインクルーシブファッションサービス。社内の持病や障がいを持つメンバーがプロジェクトに参画し、「一人ひとりの視点」を大切にしながら、それぞれのニーズを叶えた服を制作しました。
特設サイト:https://playfashion-forall.jp/
Instagram:@playfashionforall
イベントレポートはこちら:https://www.adastria.co.jp/news/sustainability/people/entry-15204/
*1 2020年Johnson & Johnson Innovative Medicine実施
乾癬患者さん500名対象「乾癬患者さんの日常生活における課題実施調査」より
*2 Kubota, K., et al.: BMJ. Open., 5:1, 2015.
*3 照井正 他:臨床医薬 , 30:279, 2014.
*4 2020年Johnson & Johnson Innovative Medicine実施
乾癬患者さん500名対象「乾癬患者さんの日常生活における課題実施調査」より
関連コンテンツ
-
「疾患を抱えているけれども、上司や同僚に言えない」
「自分の疾患に職場の理解が得られるかが心配」
仕事と病の両立に悩んでいませんか? -
コロナ禍でリモートワークが広がり、対面でのコミュニケーションがとれない状況が続いています。こうした中、従業員のメンタルヘルスへの配慮がこれまで以上に重要になってきました。
心の病気は誰もがかかる可能性があります。病気になったとしても安心して働き、暮らせる社会にする。そのためには周囲の理解が欠かせません。
メンタルヘルス疾患がある従業員が自信を持って働ける環境を、上司や同僚はどうつくるのか。ジョンソン・エンド・ジョンソンの2つのストーリーを紹介します。