Skip to content
Heart icon (animated) heart icon (static)
DE&I LGBTQ+企業取り組み 医療アクセス対談3-1 alt
シェア
DE&I

LGBTQ+の人たちが医療とつながる社会に J&Jと医師、当事者が対談【後編】
格差がない社会へ 健康の社会的決定要因(SDH)を考える

シェア
LGBTQ+など特定のSOGIを有する人が適切な医療にアクセスできない社会課題の解決への道筋をどうつけるのか。順天堂大学でSDHをテーマとした教育を行う武田裕子教授と、LGBTQ+に関する教育や啓発、就労支援、福祉に取り組むNPO法人ReBitの藥師実芳代表理事、ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニーの古屋有紀の対談、3回シリーズの最終回(シリーズ1回目2回目)は健康の社会的決定要因について考えます。

<対談者プロフィール>

武田裕子先生
武田裕子先生
順天堂大学大学院 医学研究科医学教育学 教授
筑波大学卒業.専門は内科/プライマリ・ケア、医学教育、国際協力。1990-94年ボストンBeth Israel病院にて内科/プライマリ・ケア研修。2011年ロンドン大学衛生学熱帯医学大学院修士課程修了。健康格差の社会的決定要因(SDH)をテーマに,「自己責任」と言わない医師を育てる教育に取り組む。路上生活者の支援活動に参加。在住外国人の健康格差改善に向けて「やさしい日本語」の普及を図っている。また、SOGI(性的指向性自認)によらず安心して医療を受けられる病院を目指す順天堂医院で「SOGI相談窓口」を担当。
藥師実芳さん
藥師実芳さん
認定NPO法人ReBit代表理事/社会福祉士
早稲田大学大学院教育学研究科修了。自身もトランスジェンダーであることから、LGBTQ+を含めた全ての子どもがありのままで大人になれる社会を目指し、20歳でReBitを設立。行政/学校/企業等でLGBTQ+やダイバーシティに関する研修実施、LGBTQ+へキャリア支援提供、国内最大級のダイバーシティと就労に関するキャリアフォーラム”DIVERSITY CAREER FORUM”の開催等を行う。また、日本初となるLGBTQ+かつ精神・発達障害がある人たちを主対象とした障害福祉サービス”DIVERSITY CAREER CENTER”を設立。また、世田谷区、新宿をはじめ行政で検討委員を務め、山形大学、九州大学で非常勤講師を経験。世界経済フォーラム(ダボス会議)が選ぶ世界の若手リーダー、グローバル・シェーパーズ・コミュニティ選出、オバマ財団が選ぶアジア・パシフィックのリーダー選出。共著に「LGBTってなんだろう?」「教育とLGBTIをつなぐ」「トランスジェンダーと職場環境ハンドブック」等がある。
古屋有紀さん
古屋有紀さん
ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
メディカル カンパニー / エデュケーション ディレクター Open&Out Japan リード
1991年に新卒で入社。外科や不整脈治療の医療機器事業において、米国にてセールス、プロジェクトリーダーとして、日本ではセールストレーナー、プロダクトマネジャーなどを経験した後、テクニカルサービス、エデュケーションの事業部内責任者を経て、2021年より現職。2019年より、LGBTQ+の理解啓発を通してDE&Iの文化醸成に取り組むジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ社員の自発的グループ「Open&Out」のリーダーに着任。

健康が阻害される背景に日本社会の構造的要因(社会的決定要因)がある

expand

 
古屋 次に健康の社会的決定要因(SDH)という武田先生のご専門のお話について聞いていきたいと思います。私の理解では、健康を左右する社会的決定要因は、個人の所得や家族の状況、友人・知人とのつながりや、国の政策など社会的構造などによるものだと捉えています。LGBTQ+の問題も健康を左右する社会的な要素、健康の社会的要因の一つでしょうか。

 
 

健康の社会的決定要因(SDH)とは?
「Social determinants of health(SDH)」は、一人ひとりの健康に影響を及ぼす社会の構造的な問題のことです。健康格差は、人々が成長し、生活し、働き、歳をとるという環境と、既存の保健医療システムが原因となって生じます。世界中の健康格差に対し、WHOは「努力して避けるべきことであり、それがなされていないのは不当であり、不公平」と指摘しています。

expand

 
武田 ReBitの調査で明らかなように、LGBTQ+といった特定のSOGIであることが鬱状態や、希死念慮につながっています。まさに健康が阻害されている状態です。その背景には、LGBTQ+に関する偏見や差別など日本社会の構造的要因があります。同性婚が認められていないために住まいが確保しにくい、社会保障の給付や税の優遇措置が受けられない、相続上の権利がないなど、日常生活で大きな不利益が生じ、ストレスに晒されるのも法制度という社会的要因によります

LGBTQ+の方の中には、小さいころから自己肯定感を持てない環境で育っている方が少なくありません。学校でいじめにあうとか、男女二元論の枠組みを押し付けられるなど様々な理由で不登校になると教育を十分に受けることができなくなります。そのために自分のやりたい仕事にも就けないといったことが起こります。

そもそも就職活動で困難に直面し、就職後も継続して困難を経験することはReBitの調査でも明らかになっています。仕事が得られない、続けられないと収入が不安定になります。そして貧困は、社会的決定要因のなかでも最も大きく健康に影響するといわれています。医療者への教育も十分ではありません。医療分野での知見の集積や、自信を持って医療を提供できる医師育成の仕組みが十分でないという教育体制も社会的要因として挙げられます。

古屋 お話を伺っていると、貧困や教育などさまざまな要因がつながっている可能性があることがわかりました。藥師さんは今の武田先生のお話を聞いて、どう感じましたか。
 
藥師 先生のおっしゃるように、私たちが行った調査でも過去10年に生活困窮したことがあるLGBTQ+は2人に1人*1という結果となりました。
  

expand

 

また、日本では障害福祉サービスを利用するには、医療機関で医師の診断や意見書が必要となる場合も少なくありません。そのためには、単発ではなく継続した受診が必要で、医療が安全に利用できないことは、福祉を利用できないことに繋がってしまいます。

個人の活動や、企業の発信の積み重ねがマクロレベルの変化につながる

Quote icon (top)

企業や行政などさまざまなステークホルダーが発信することで、人々の関心が高まっていく

Quote icon (bottom)
expand

古屋 ジョンソン・エンド・ジョンソンはヘルスケアカンパニーとして、「我が信条(Our Credo)」に基づき、ヘルスケアアクセスの公正性に向けグローバルな取り組みをしています。医療へのアクセスの公正性などSDHの面でどのような期待があるでしょうか。アドバイスをいただければと思います。

武田 SDHにはミクロ、メゾ、マクロレベルのそれぞれにおけるアプローチが大事だと言われています。ミクロレベルでは、まず一人ひとりがアライとして活動することが考えられます。身近なところにも当事者はいるはずです。小さな行動が大きな励ましになります。また、古屋さんが取り組まれているOpen&Outの活動は、メゾレベルのアプローチになります。企業における組織体制を整えることが、次の一歩につながります。さらに、活動領域を少し広げて、医療者や教育関係者が必要な知識にアクセスしたり、学べる場を提供したりといったことを検討していただけると嬉しいです。最後に、グローバル企業である御社からの発信は社会への大きなメッセージになります。SOGIをはじめとする差別の禁止は人権にかかわることであり、それこそがグローバル・スタンダードであると明示いただくことが、法律や社会などマクロレベルの変化につながると期待します。

 
藥師 企業や行政などさまざまなステークホルダーが発信することで、人々の関心が高まっていくと思います。行政でも福岡県*2・東京都*3等が行政のホームページにパートナーシップ証明書が活用できる医療機関を一覧化していたり、神奈川県横須賀市の市立病院*4では指針に、意識不明などで判断能力のない患者の手術同意書の署名者として、同性パートナーも認めることを盛り込んだといいます。多様なステークホルダーが発信し、連携することで社会は変わっていくと考えています。

LGBTQ+の患者さんへの対応をまとめた本を出版

expand

 
古屋 ありがとうございます。最後に今後のお2人の活動についてお話ください。

武田 順天堂医院だけでも4000人余りの職員がいます。大きな組織で職員の入れ替わりもあるため、継続的に研修会を開催するなどフォローが必要です。また、学長の働きかけがあり、今後、全学部および全附属病院において取り組みをさらに発展させることになりました。大学病院としてこのような取り組みを行っているということで、他の病院から見学にも来ていただいています。協力させていただくことで、医療界が代わっていくきっかけになればと思っています。

また、にじいろドクターズ理事の吉田絵理子先生と、先ほどお話しした本学アドバイザーの宮田瑠珂さんと3名で、医療機関におけるSOGIに配慮した対応をまとめたQ&A集の書籍を企画しました。多くの専門家・当事者の方にご執筆いただくことになっています。マニュアル本を作成すると「これさえできればいい」というステレオタイプの対応をよしとする印象を与えかねないのではという懸念もあったのですが、最初の一歩を踏み出すにはある程度の指針は必要ということで取りかかりました。一つのテーマについて様々な立場の方にご執筆いただくことで、一人ひとりに向き合うことの大切さが伝わることを願っています。2024年春に日本看護協会出版会から刊行予定です。

藥師 今ReBitでは福祉の課題に取り組んでいますが、LGBTQ+の方が取り残されないような構造をつくっていきたいと考えています。医療にアクセスできてから福祉につながれるので、両方がしっかりつながる枠組みを実現したいと思います。

古屋 将来の楽しみが増えるようなクロージングになりました。私たちもヘルスケアカンパニーとして自分たちに何ができるか、どんな連携ができるかを考え、いい医療現場をつくれるよう貢献していきたいと思います。

【参照】
*1: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000045.000047512.html
*2: 福岡県パート―シップ宣誓制度について
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/fukuokapartnership.html
*3: 東京都パートナーシップ宣誓制度受理証明書等が面会等の際に活用可能な病院
https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/10jinken/base/upload/item/list_pb04_3.pdf
*4: 性的指向や性自認に関わらず活用できる制度など
https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/0531/200908doui.html

関連リンク

Back to top