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LGBTQ+の人たちが医療とつながる社会に J&Jと医師、当事者が対談【前編】
約8割が「医療関係者にセクシュアリティについて安心して話せない」調査で明らかに

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2023年6月にLGBT理解増進法が施行されるなど、性的マイノリティーへの理解を広める動きが加速しています。その一方で、LGBTQ+など特定のSOGI(ソジ:sexual orientation & gender identity:性的指向・性自認)を有する人が適切な医療にアクセスできないことが社会課題となっています。



ヘルスケアカンパニーであるジョンソン・エンド・ジョンソンは、経営理念の「わが信条(Our Credo)」に基づき、ヘルスケアアクセスへの公正性を促進するための活動をグローバルレベルで行っています。また、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の理念の下、「Open&Out」という有志グループが、LGBTQ+の人が働きやすい職場づくりのために活動しています。



今回ジョンソン・エンド・ジョンソンは、性的少数者の人たちが医療にアクセスしやすい社会について考える対談を企画しました。順天堂大学でSDHをテーマとした教育を行う武田裕子教授と、LGBTQ+に関する教育や啓発、就労支援、福祉に取り組むNPO法人ReBitの藥師実芳代表理事に、LGBTQ+の人が医療にアクセスする際に感じていることや医療機関の取り組みについて聞きました。対談を3回シリーズで紹介します。



(文中敬称略)

<対談者プロフィール>

武田裕子先生
武田裕子先生
順天堂大学大学院 医学研究科医学教育学 教授
筑波大学卒業.専門は内科/プライマリ・ケア、医学教育、国際協力。1990-94年ボストンBeth Israel病院にて内科/プライマリ・ケア研修。2011年ロンドン大学衛生学熱帯医学大学院修士課程修了。健康格差の社会的決定要因(SDH)をテーマに,「自己責任」と言わない医師を育てる教育に取り組む。路上生活者の支援活動に参加。在住外国人の健康格差改善に向けて「やさしい日本語」の普及を図っている。また、SOGI(性的指向性自認)によらず安心して医療を受けられる病院を目指す順天堂医院で「SOGI相談窓口」を担当。
藥師実芳さん
藥師実芳さん
認定NPO法人ReBit代表理事/社会福祉士
早稲田大学大学院教育学研究科修了。自身もトランスジェンダーであることから、LGBTQ+を含めた全ての子どもがありのままで大人になれる社会を目指し、20歳でReBitを設立。行政/学校/企業等でLGBTQ+やダイバーシティに関する研修実施、LGBTQ+へキャリア支援提供、国内最大級のダイバーシティと就労に関するキャリアフォーラム”DIVERSITY CAREER FORUM”の開催等を行う。また、日本初となるLGBTQ+かつ精神・発達障害がある人たちを主対象とした障害福祉サービス”DIVERSITY CAREER CENTER”を設立。また、世田谷区、新宿をはじめ行政で検討委員を務め、山形大学、九州大学で非常勤講師を経験。世界経済フォーラム(ダボス会議)が選ぶ世界の若手リーダー、グローバル・シェーパーズ・コミュニティ選出、オバマ財団が選ぶアジア・パシフィックのリーダー選出。共著に「LGBTってなんだろう?」「教育とLGBTIをつなぐ」「トランスジェンダーと職場環境ハンドブック」等がある。
古屋有紀さん
古屋有紀さん
ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
メディカル カンパニー / エデュケーション ディレクター Open&Out Japan リード
1991年に新卒で入社。外科や不整脈治療の医療機器事業において、米国にてセールス、プロジェクトリーダーとして、日本ではセールストレーナー、プロダクトマネジャーなどを経験した後、テクニカルサービス、エデュケーションの事業部内責任者を経て、2021年より現職。2019年より、LGBTQ+の理解啓発を通してDE&Iの文化醸成に取り組むジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ社員の自発的グループ「Open&Out」のリーダーに着任。

LGBTQ+の理解啓発を通してDE&Iの文化醸成に取り組む社員グループ
O&O(Open & Out)とは?

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Open&OutはLGBTQ+の理解啓発を通してDE&Iの文化醸成に取り組むジョンソン・エンド・ジョンソン社員の自発的グループです。2015年にアメリカ、カナダに続き、世界で3番目のChapterとして発足しました。

「個性はそれぞれ。誰もが安心して過ごせる“ありのまま”」をテーマにLGBTQ+(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスセクシャル・クエスチョニングとそれ以外)の理解を深め、誰もが働きやすい職場づくりと社会づくりを目指しています。

インクルーシブな環境をつくるための社内の活動と、ジョンソン・エンド・ジョンソンがインクルーシブな会社であることを社外に発信する取り組みを行っています。
  

主な活動実績
 

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▽LGBTQ+フレンドリーサインの配布

社員一人ひとりが差別や偏見をしないことを示すマークを身の回りにつけることを推奨し「フレンドリーサイン」を配布しています。既に600人以上の社員が参加しています。

▽レインボージャーニートレーニングの実施

より良い理解者・支援者である ALLY(アライ)になるための、LGBTQ+に関する基礎知識とより良いコミュニケーションのありかたを学ぶトレーニングをチームで開発。これまでに200 人以上が受講しています。認定 NPO 法人 ReBitと連携し、トレーニングの出張授業も行っています。

こうした取り組みが評価され、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループは「PRIDE指標*2023」において7年連続で最高評価のゴールドを受賞しました。

* PRIDE指標とは、2016年に任意団体 work with Prideによって日本で初めて策定された、LGBTQ+などの性的マイノリティに関する取り組みを客観的に評価する指標です。

「トランスジェンダー男性・女性の約8割がハラスメントを経験」

古屋 私は、ファシリテーターを務めるジョンソン・エンド・ジョンソンの古屋です。LGBTQ+の当事者であり、社内で「Open&Out(O&O)」という組織を立ち上げ、リーダーとしてLGBTQ+の社員が働きやすい職場をつくることに取り組んでいます。LGBTQ+への差別をなくし、理解を促す「Open&Out」は、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)推進に向けた取り組みの一環として2015年にスタートしました。また、ヘルスケアカンパニーであるジョンソン・エンド・ジョンソンは、経営理念の「我が信条(Our Credo)」に基づき、ヘルスケアアクセスへの公正性を促進するための活動をグローバルレベルで行っています。

武田 順天堂大学の武田裕子です。医師で所属は医学教育部門ですが、臨床では内科およびプライマリ・ケアを専門としています。健康格差をテーマに教育やその研究に取り組んでいます。社会的、構造的な要因によって健康が損なわれることを学生や医療者に伝えています。予約通りに外来受診しない、処方薬を指示通り内服しない患者がいると自己責任と捉えがちです。 しかし、「しない」のではなく「できない」のではないかという視点で、その「原因の原因」について考えられるようになってほしいと願っています。

藥師 認定NPO法人ReBit代表理事の藥師実芳です。私自身トランスジェンダー男性で、幼少期から自身の性別に違和感があったものの、誰にも言えずに悩み、高校2年生の時に自殺未遂を図りました。この経験から大学2年生の時に、LGBTQ+を含む全ての子どもがありのままで大人になれる社会を目指しReBitを立ち上げました。学校教育、キャリア支援、福祉の3領域を行っています。

LGBTQ+であること自体は障害や病気ではありませんが、私たちの調査ではLGBTQ+の約4割が過去10年に精神障害*1があり、精神障害における高リスク層です。一方で、約8割の方が福祉サービスを利用する時にセクシュアリティに関する困難・ハラスメントを経験*2しています。

古屋 ありがとうございます。藥師さんが代表理事を務めるReBitでは、2023年にLGBTQ医療福祉調査2023*3を行いました。どんな結果が出たのでしょうか。

藥師 LGBTQの1138人から回答を得た調査では、約8割の人が「医療関係者にセクシュアリティを安心して話せない*4」と答えました。なお、トランスジェンダー男性・女性の約8割が過去10年に医療サービス等を利用した際に、セクシュアリティに関連した困難・ハラスメントを経験しています。そのことにより、約4割が心身体調が悪くても病院に行けなくなったと回答しています。

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古屋 具体的にはどんな声があったのですか。

藥師 診察でトランスジェンダーであることを伝えたら、医師に笑いながら『ふーん』と言われ、下から上までじろじろ見られたり、医療機関の受診や入院の際に望まない性別で扱われたことへの苦痛を感じたりしたという声がありました。

また、救急車を呼びたかったけれども、同性パートナーの家族として同乗できないのでは、との心配から救急車を呼べなかったというケースもありました。実際に私自身、体調が悪いなと思いながらも病院へ行けないことがあります。

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トランスジェンダー男性・女性の約8割が過去10年に医療サービス等を利用した際に、セクシュアリティに関連した困難・ハラスメントを経験

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順天堂医院のSOGI相談窓口 「レインボーフラッグがあって、排除されていないと感じた」

古屋 順天堂医院ではいち早くSOGIのワーキンググループ(WG)をつくり*5、SOGI相談窓口をつくるなど、あらゆるSOGIの方が安心して医療を受けられる体制を整えています。また、インフォームドコンセントの代諾者は親族に限らず認めるという取り決めをされています。どんな反響がありますか。

武田 来院患者さんに目に見えて大きな変化があったということはありませんが、X(旧twitter)で、同性パートナーが入院されたという方が、「順天堂医院の受付にレインボーフラッグがあって、排除されていないと感じた。書類手続きもスムーズで関係性の説明を細かく求められなかった」という主旨の投稿をされていました。また、病棟看護師が「レインボーバッジを付けているのを見て悩みを打ち明けてくれた患者さんがいた。何気なく身に着けているが患者さんは気づいてくれているのだと感じた」と話していました。とても嬉しかったですね。

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藥師 順天堂医院の取り組みは何がきっかけで、どう進めたのでしょうか。

武田 2020年から2021年にかけて、多くの自治体がパートナーシップ制度を導入し、企業もLGBTQ+の取り組みを加速させました。当時、ある職員が「患者さんがパートナーシップ証明書を持ってきたらどういう対応をするのか」という質問を医療安全部門に投げかけたんです。すぐに医療安全部門の責任者が、新井 一学長に大学としてのスタンスを聞き、学長から「とても重要なことなので、院長と相談して進めてください」と応答がなされました。

ワーキンググループ(WG)を立ち上げ、私が委員長に指名されました。メンバーを募る時は、さまざまな部署から自発的に手が上がって、心強かったです。

藥師 声を上げてくださる方がいて、トップの方の理解や判断があり、全方位で取り組むべき課題として共通認識ができ、ワーキンググループができたという流れが素晴らしいです。

武田 はい、専門的な知見をお持ちの方の支援も大きかったです。この領域のコンサルタントをなさっている宮田瑠珂さんが順天堂医院のSOGI相談窓口を見つけて、協力したいと連絡をくださったんです。瑠珂さんには去年からワーキンググループ(WG)の外部委員になっていただきました。昨年、今年とLGBTQ+への取り組み指標となる「PRIDE指標」を申請し、2年続けてゴールド認定を受けましたが、瑠珂さんのアドバイスで、病院としての方向性を整理できました。今年から大学のアドバイザーとして正式に関わっていただいています。知見を持った方が支えてくださっていることもうまくいった要因だと思います。

古屋 LGBTQ+は顕在化しにくい問題で、どれか一つだけでは動かないですよね。後ろ盾になるような考え方、サポートする人、動かす人が必要です。私たちOpen&Outでもアライを増やすために、レインボー・ジャーニーといわれる社内の啓発活動を行ったり、ReBitさんと一緒に社外でこの問題についての出前授業を行っています。

 
 
【参照】
*1: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000045.000047512.html
*2: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000045.000047512.html
*3: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000045.000047512.html
*4: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000045.000047512.html
*5: 順天堂大学医学部附属順天堂医院の取り組み:多様性は力(「医学教育」2023年54巻1号) 2021 年 5 月に「SOGI をめぐる患者・家族・職員への配慮と対応 ワーキンググループ」を立ち上げた.2023 年 2 月現在,300 名を超える「アライ」が生まれ,様々な部門で多様なセクシュアリティの患者が不安なく受診し治療を受けられる環境づくりを進めている.こうした取り組みは病院内にとどまらず, 大学の他の部門にも広がり,医学部では医学生への適切な配慮や卒前教育の充実をもたらしている.少人数形式の SOGI セミナーにおいて,患者の立場からの体験や要望を直接に聴く機会を得ていることが,理解を深め行動の変化につながっている

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