家族の死を覚悟した3.11の経験を胸に
友人宅で震災に遭い、家に帰れなくなったあの日。刻一刻と明らかになる自宅付近の悲惨な状況を聞いて、私は家族の死を覚悟しました。
幸い、家族は無事でしたが、この経験をきっかけに、海外の事例も含め、災害看護を学びたいと思い、TOMODACHIプログラムに参加させていただきました。
アメリカで受けた様々な講義やワークショップの中でも特に印象深かったのが、コロンビア大学で体験した「詩を用いたメンタルヘルスケア」の研修です。これは参加者全員で詩を朗読し、どう感じたかをそれぞれが発表する形で進められます。朗読するのは災害に関係のない一般的な詩。私自身もそうでしたが、詩に触れることで、心の奥底に抱えていた悩みや被災当時の経験を自然と表現することができました。
これまで私は、被災者の心のケアを「直接的な体験や悩みを聞くこと」と捉えていましたが、「間接的に相手の想いを汲み取ること」ができるケアの方法があることに感銘を受け、今でも非常に心に残っています。
看護師や看護学生がもっと海外に行ける環境を
大学卒業後は看護師として働き、1年半前に保健師に転身して現在に至ります。
看護師と保健師の大きな違いは、その対象と目的です。看護師は病気を抱えた患者さんに対してケアを行いますが、保健師は病気を抱える前の人たちにアプローチして、病気を未然に防ぐことが仕事です。主に人間ドックを受ける方の問診や保健指導を行っていますが、病気と診断される前から「生活習慣を変えるように」、「運動するように」などの保健指導を行っても、なかなか受け入れていただけません。
そこで、TOMODACHIプログラムで学んだ、間接的に相手の気持ちを聞き出す手法を用いて、問診や保健指導で受診者の身体に対する悩みや不安を丁寧に伺うよう努めています。患者さんに共感しながら、病気にならないこと、行動変容につながる意識づけをできるよう心掛けています。
保健師の仕事においては、さりげない会話の中から病気発見のヒントになる情報を引き出すこと、相手の気持ちに寄り添うことなどが必要とされます。そのような場面で、プログラムを通じて学んだ、傾聴すること・伝えることの大切さを思い出しています。
また、保健師になってから人前で話すことも増えましたが、TOMODACHIプログラムで得た気づきやレポート作成、ブログ発信、大勢の前で発表の機会をいただいた経験が役立っていると感じます。
今後も保健師としてのスキルを積み、将来的には後進の育成、そして看護師や看護学生が学びのためにもっと海外に出られるような環境づくりに貢献できたらと考えています。
動画でもご覧いただけます!
関連ストーリー
-
People新型コロナウイルスという歴史的なパンデミックに日々立ち向かう医療従事者。自然災害が多発する日本の医療現場では、災害が起きればコロナ対策と併せて難しい対応を迫られます。
TOMODACHI J&J災害看護研修プログラムの卒業生で、看護師としてコロナ対応に当たる石巻赤十字病院の佐藤未佳さんと同プログラムのコンサルタントである岩手医科大学看護学部の小松恵特任准教授に、コロナ禍で求められる災害看護について聞きました。 -
People私は福島県出身ですが、東日本大震災当時はアメリカで働いていました。テレビに映し出される福島の様子に大きなショックを受け、東北人でありながら大変な状況を外からしか知らない自分、災害看護に興味を持ちながら何もわからない自分に、どこか引け目を感じるような部分もありました。 そんな自分がTOMODACHIプログラム参加したのは、このプログラムを通し、災害について学び、経験者の話を聞かせていただくことで得られるものがあるのではないかと思ったからです。実際にアメリカで災害看護に携わった方々と話をさせて頂いた中で心に残っているのは、災害に遭った地域の子どもたちや住民の方々が、災害が起きた直後ではなく、少し時間が経ってからアルコール依存症や薬物依存、非行に走るなどの傾向が多いというお話です。
-
People災害時にもきちんと対応できる看護師になりたい―それがTOMODACHIプログラムに参加したきっかけでした。