「心房細動(しんぼうさいどう)」は、心房全体が痙攣するように細かく震えることで脈が不規則になる不整脈です。心房全体が十分な収縮をできない影響により、血栓による脳梗塞の発症リスクを上昇させてしまう心臓の病気です。
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高齢化社会を迎え今後ますます患者数が増えると予想されている心房細動には、現在、主には薬による治療やカテーテル治療などいくつかの治療法があります。
心房細動を引き起こしている心臓の組織に直接アプローチする「カテーテルアブレーション」という治療法もその1つですが、このカテーテルアブレーションの新技術として「PFA(パルスフィールドアブレーション)」が注目されています。
心房細動治療の選択肢を広げる「PFA(パルスフィールドアブレーション)」とはどのような仕組みなのか、治療はどこでどのように行われるのか、といった基礎知識をご紹介します。
PFA(パルスフィールドアブレーション)治療について
PFA(Pulsed Field Ablation / パルスフィールドアブレーション)とは、従来、高周波によって心臓の組織を焼灼(しょうしゃく 熱で組織を変性させる)することで行っていたカテーテルアブレーション(経皮的カテーテル心筋焼灼術)を、短時間の周期(パルス)で電圧をかけることで心房細動の原因となりうる心筋組織を選択的に治療できる新しい手法です。
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心房細動の治療のあゆみ
心房細動の患者数は年々増加しており、国内では100万人※1 以上の患者さんがいると推定されています。2030年までに140-170万人まで増加するとの見解もあり※2、医療技術の向上に対する期待が高まっています。
心房細動の治療法には大きく分けて2種類あり、1つは薬で心拍数や拍動のリズムを整えたり、血液の凝固を抑えて血栓ができにくくしたりする薬による治療、もう1つは心臓に直接アプローチするカテーテルアブレーション(経皮的カテーテル心筋焼灼術)です。
薬による治療は心拍のリズムを整える作用があるものなどがあり、薬を飲み続ける必要があるものもあります。
一方、カテーテルアブレーションは、根治を目指す治療方法の一つです。脚の付け根の血管から心臓内にカテーテルを挿入し、心房細動の原因である異常な電気信号を発する部位を特定して、電気信号が伝わらないように心筋部分を治療します。
心房細動と診断される患者さんの数は増えており、カテーテルアブレーション治療を受ける患者さんも年々増えています。
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アブレーション治療数
近年、器具の性能や安全性向上は進んでいますが、熱を使って治療することから、まれに周囲の組織(食道・横隔神経など)にダメージを与える可能性もありました。
PFA(パルスフィールドアブレーション)は熱を使わないエネルギーであること、また心筋選択性のあるパルス電圧により、心筋のみにアプローチし、周辺組織を傷つけずに治療できる可能性が期待されています。
また手術時間の短縮などのメリットも多く、今後も普及が期待される治療法として注目されています。
パルスフィールドアブレーションの原理
特定の値の電圧をかけると、心筋にのみ穴が開き、細胞死が引き起こされます。
心筋は他の組織と比較してIRE(不可逆電気穿孔法)のしきい値が低く、周辺組織を傷つけずにアブレーションできる可能性(組織選択性)があります。
組織タイプ | IREアブレーションに要する電場(V/cm) |
心筋 | 375 |
赤血球 | 1100 - 1600 |
血管平滑筋 | 1750 |
※3 ※4 ※5
PFA治療の流れ
PFA治療の流れPFA(パルスフィールドアブレーション)は、従来のアブレーション治療と同様に、カテーテルを血管に挿入して行います。カテーテルの種類によって、RF(高周波)や冷凍などの熱で組織変性をさせるか、PFA(パルスフィールドアブレーション)のパルス電圧を発生させるのかという点が異なります。
PFAによる治療は、全国の循環器科又は循環器内科で日本不整脈心電学会認定不整脈専門医研修施設であり、かつ心房細動のカテーテルアブレーションを年間30症例以上実施している等の条件が揃った医療機関で受けられます。
一般的なカテーテルアブレーション治療の流れは以下のとおりです。
- 心房細動の検査と診断:心電図検査(24時間ホルター心電図など)/胸部X線写真/心臓超音波検査など
動画はこちら:https://bcove.video/46MCgsn - 治療前の検査:造影CT検査/経食道心臓エコー検査/血液検査など
- 入院(※カテーテルアブレーション治療1日前):服用している薬の中止や変更/食事・トイレ・入浴は可能
- 当日の治療開始まで:絶食/時計や指輪を外す/手術衣に着替える
- 治療の実施:心臓血管撮影室へ/心電計などを装着/消毒後カテーテル挿入部の局所麻酔/鎮静剤などの点滴/カテーテルを挿入し心臓電気生理検査装置(3Dマッピングシステムなど)でカテーテルの位置を確認する/治療する/カテーテルを抜去して止血する
- 治療終了後:数時間安静に過ごす/鎮静から覚めれば食事は可能
- 翌日:傷口の確認/歩行/異常がなければ退院へ
- 退院後:外来で経過観察/運動や食生活の改善/抗凝固剤などの服用
▼より詳しい心房細動の治療については以下の記事もご参照ください。
PFA治療に関するQ&A
Q:PFAはこれまでのアブレーションとは違う新しい治療なのですか?
A:使用するエネルギーが高周波ではなくパルス電圧である点が異なります。医師が心臓の形状などを考慮して最適な医療技術を選択します。
Q:治療には入院が必要ですか?
A:入院治療が必要です。しかしカテーテル治療は身体への侵襲や負担が比較的小さい治療のため、多くの場合3泊4日程度で退院できます。
Q:カテーテルアブレーション治療は心房細動の人であれば誰でも受けることができますか?
A:薬剤が効かない等の患者さんに対して一般的な選択肢となっているといえます。ただし長期にわたって心房細動が続いている方や症状がない軽度の患者さん、左心房が過度に大きくなっている方などでは適応にならないことがあります。医師によく相談をしましょう。
不整脈領域のイノベーションをリードしてきたジョンソン・エンド・ジョンソン メドテック
ジョンソン・エンド・ジョンソン メドテックは、不整脈・心房細動のカテーテルアブレーション診断と治療の技術革新をリードし続けてきました。
心房は複雑な立体構造を持つため、内部でカテーテルを操作し、対象の部位をより正確に治療するためには3次元でのマッピングシステムやナビゲーションが非常に役立ちます。
ジョンソン・エンド・ジョンソンではすでに2011年からこの3次元マッピングシステムを提供し、合併症の低減や治療時間短縮にも貢献しながら、心房細動の根治を目指す患者さんの回復に寄与してきました。
今後PFA(パルスフィールドアブレーション)の技術が加わることで、心房細動の治療の選択肢の拡大につながります。
患者さんの安全性、治療選択肢、医師の治療を支える
PFA(パルスフィールドアブレーション)は、電圧を用いることで、ターゲットの心筋細胞のみを組織選択的にアブレーションでき、心臓周辺の臓器の損傷を低減することが期待される新しい技術です。
またスムーズな操作で治療時間を短縮し、医療関係者へのサポートにもなるPFA(パルスフィールドアブレーション)は、今後さらに広がることが期待されています。
ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、今後もカテーテルアブレーションの技術発展に貢献していきます。
※1 Inoue H, et al. Int J Cardiol 2009;137:102-107.
※2 Zoni-Berisso M, Lercari F, Carazza T, Domenicucci S. Epidemiology of atrial fibrillation: European perspective. Clin Epidemiol 2014; 6:213-220.
※3 Kaminska I et al., Electroporation-induced changes in normal immature rat myoblasts(H9C2). Gen Physiol Biophys; 2012; 31: 19–25.
※4 Bao N et al., Microfluidic electroporation of tumor and blood cells: observation of nucleus expansion andimplications on selective analysis and purging of circulating tumor cells. Integr Biol (Camb).; 2010; 2: 113-120.
※5 Maor E et al., Non thermal irreversible electroporation: Novel technology for vascular smooth muscle cells ablation. PLoS One. Public Library of Science; 2009;4(3):e4757.
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