リバースメンタリングとは?導入効果と方法
リバースメンタリングとは?
リバースメンタリングとは、上司が若手に助言する従来のメンタリングと立場を逆転させ、若手がメンター、経営層やベテラン社員がメンティーとなる人材育成です。DXや働き方など変化の多い課題が増える中、若手の価値観も経営に取り入れることが有効とされています。また、リバースメンタリングは、多様な個性や見方を尊重し、採り入れようとする、ダイバーシティ、エクイティ & インクルージョン(DE&I)の考え方にも沿っています。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのリバースメンタリングは、「Generation NOW」(GenNOW)というERG(社員の自主的なグループ)が中心になって取り組んでいます。若手社員がメンター(指導や助言をする側)、ベテラン社員がメンティー(メンターから指導や助言を受ける側)になり、さまざまなビジネス課題について話し合うことで、相互に学び合う機会を創り出すことが狙いです。
リバースメンタリング導入による効果
ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、2023年に約80人がリバースメンタリングに参加、2022年に行ったアンケートでは、参加者の約8割が「実際に業務において活かせそう」と回答しています。また、リバースメンタリングを通じて得た学びの項目では「異なる世代の方との価値観の違い」が一番多い回答となりました。ほかには、「キャリアについての考え方の違い」「実務的なスキル(デジタルツールの活用方法)」「異なるジェンダーの方との価値観の違い」「公の場での戦略発表等に対する反応」などの項目が挙げられ、参加者にとって多様な価値観などを学ぶ機会となっていることがうかがえます。


リバースメンタリングの導入方法
効果的なリバースメンタリングは事前準備が重要です。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのリバースメンタリングは、ウェブでのマッチングを経て決まったペアが、2~4週間おきに計3、4回のメンタリングを行います。時間は各回30~60分、話し合うテーマはお互いに相談しながら設定します。
双方にとって実り多いメンタリングにするために、事務局であるGenNOWのメンバーが説明会や動画で留意点(ルール)を説明しています。
また、リバースメンタリングを効果的に行うため、以下のポイントを参加者に提示しています。
- 守秘義務を負う
- アイスブレイクを長めにとる
- 自分と異なる意見を受け入れ、柔軟な姿勢で相手の言葉に耳を傾ける
- メンティー/メンターの立場が逆転しないよう意識する
- メンティーは自ら学びたいことを明確にし、具体的にメンターへ伝える
- メンターという立場に慣れていない若手社員を思いやりへ意識的に賞賛する
- メンターは自身が提供できることを積極的にアウトプットする
- メンターは主観・客観の両面でメンティーにフィードバックする
J&Jのリバースメンタリング

J&Jのリバースメンタリングの流れ
リバースメンタリングの流れは4つのフェーズに分けられます。
- メンター・メンティー向け説明連絡/応募
リバースメンタリングの概要の説明、参加者がアプリから応募、参加者の目的の明確化、参加者のプロフィールを記載 - マッチング・日程調整
メンティー:プロフィール等を基にメンターになって欲しい方に申請を行う
メンター:メンティーからの依頼を受ける、必要な心構えを確認
*マッチング成立 - メンタリング
- 実施後アンケート
運営事務局であるGenNOWは、参加者へのリバースメンタリングの概要説明、情報共有、効果的な進行のため推奨や相談などを担い、運営します。

リバースメンタリングの取り組み事例

ビジョンケア カンパニー 代表取締役プレジデント 森村純(右)
メディカル カンパニー サプライチェーンマネジメント 牛久保美羽(左)
ジョンソン・エンド・ジョンソンで10月に行った、ビジョンケアカンパニー代表取締役プレジデントの森村純と、入社2年目の若手社員の牛久保美羽(みう)のリバースメンタリングの事例を紹介します。
若手の価値観を経営に取り入れ、変化に対応する森村と、若手だからこそトップと話せる機会で多くを学んだ牛久保。リバースメンタリング後の感想なども含めた様子もあわせ解説します。
多様な価値観

ビジョンケア カンパニーの経営トップである50代の森村のメンターは、新卒入社2年目の20代の牛久保美羽(みう)。普段は医療機器を扱うメディカル カンパニーでサプライチェーンマネジメントの職務を担当しています。
10月中旬、森村の社長室で、2人は机を挟んで向き合いました。この日は3回目のメンタリングです。この日のテーマは、カラーコンタクトレンズ「ワンデーアキュビュー®ディファイン®モイスト®」の商品戦略についてでした。モニターに資料を映しながら森村は現状を説明した上で「10代、20代の若い世代の顧客層を取り込むにはどうしたらよいと思いますか」と尋ねました。
森村の質問に、牛久保は自分自身や友人などの事例を挙げて、こう答えました。
「友人や妹、私自身の経験でも、自分が好きなインフルエンサーがSNSなどで紹介するファッションを総合的に気に入って買うということが多いように思います」

森村はさらに質問を重ねます。
「牛久保さんが重要だと思っているインフルエンサーは何人ぐらい?」
「私は5、6人いますね。さまざまなファッションの組み合わせを丁寧に説明してくれるので、テレビCMよりもわかりやすいです」
「飽きさせないコンテンツづくりは、学ぶべきところですね」と森村は納得した様子です。森村は、オンラインで商品を購入する時の上限額についてもヒアリングしました。

堅苦しさがない対話に、牛久保はリラックスした様子で自分の考えを話します。
次は10代がカラーコンタクトレンズを買う時に、誰が最終決定権を握るのかという話題に。牛久保は、高校生の時には保護者にコンタクトレンズを買ってもらっていたなどのエピソードを話し、購入の際の決定権者についても自身の考えを伝え、森村も納得した様子です。
「経営戦略のフレームワークに生かす(メンティー)」 「経営判断のスピード感を肌で感じた(メンター)」
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「若手なのにトップと話せる」ではなく「若手だからこそトップと話せる」という
風土があることも牛久保にとって大きな気付き![]()
約30分のメンタリングを終えた2人に感想を聞きました。
ビジョンケア カンパニーの経営トップである森村は、「経営のかじ取りはアウトプットが大半なので、リバースメンタリングは貴重なインプットの時間です。牛久保の意見は中長期の経営戦略を立てる上で参考になりました」と振り返りました。

森村は2021年にもリバースメンタリングに参加しており、当時メンターとの対話が、経営戦略を立てる上でのフレームワークの一部になっているといいます。「メンターが語れるエピソードを考えた上で、中長期的な経営課題のヒントになりそうな話をテーマに据えます」(森村)
メンターを務めた牛久保は「一度、森村さんに聞かれたことに対して『持って帰って考えます』と言ったところ、森村さんに『今、答えてほしいです』と言われたことがあります。経営判断のスピード感を知ったと同時に、考えることを放棄していたと反省しました。以来、普段の業務の中でも常に思考を停止させずその場でできる最善を尽くすことを心掛けています」

ジョンソン・エンド・ジョンソンには「若手なのにトップと話せる」ではなく「若手だからこそトップと話せる」という風土があることも牛久保にとって大きな気付きとなりました。世代や役職を問わず、アイデアや発表内容そのもので評価される社風にも魅力を感じています。
最後に、森村と牛久保に効果的なリバースメンタリングをするには何が重要かを聞きました。
「学びの多いメンタリングにする上では、メンターが話しやすい課題設定が大切です。心理的安全性の高さもポイントです」(森村)
「メンティーに臆さず等身大の価値観や意見を伝えることだと思います」(牛久保)
ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、ベテラン社員と若手社員の対話の場として、また、若手の視点を取り入れ、改善し、ビジネスに生かすリバースメンタリングを今後も継続します。