働く女性にとっても「治療と仕事の両立」が課題
2021年の日本における女性(15~64歳)の就業率は71.3%で、2005年の58.1%と比べると約13ポイントも増えています(※1)。働く女性が増える中、病気などの治療をしながら働く人も多く、2019年の厚生労働省の調査(※2)によると、がん治療をしながら働く人は44.8万人で、うち女性が約6割を占めていました。また、別の調査(※3)では、不妊治療をしたことがある(または予定している)労働者のうち「両立できず仕事をやめた」「雇用形態を変えた」など「仕事と両立ができなかった」と回答した人は約35%を占めていました。これらのことから、働く女性にとって「治療と仕事の両立」は、企業が取り組むべき課題の1つと言えます。
このような実態を背景に、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループの医薬品部門であるJohnson & Johnson Innovative Medicineは2022年、治療と仕事の両立支援のためのプロジェクト「対話でつくろう サステナブル・ワークスタイリング」を発足しました。本プロジェクトを通し、病気や障がいを抱えながら働く人が、治療と仕事を両立できる職場づくり、そしてそれを可能にする企業文化の醸成を目指しています。
がん治療や不妊治療をテーマにワークショップ開催
昨年10月の本プロジェクト発足に続き、3月8日の国際女性デーに合わせ、「治療も仕事もあきらめない 女性のためのサステナブル・ワークスタイリング」と題し、社員やメディア関係者を対象にワークショップを開催しました。その模様をレポートします。
ワークショップでは初めに、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ統括産業医の岡原伸太郎が、病気を抱えて就労する人の実態や両立支援における上司の役割について説明しました。
岡原は、病気を抱える労働者の9割超が就労継続を希望しているという厚生労働省のデータを紹介した上で、「働き続けたいという人が多い中、休職制度の活用や配慮してもらうことを誰にも相談せずに退職する方もいます。しかし仕事を続けることを最初から諦めてしまうことをデフォルトにしないことが大事」と話します。
また治療と仕事の両立支援において果たす上司の役割も紹介しました。まずは、治療をしながら働き続けたいと願う従業員が上司と信頼関係を築き、安心して話せる環境を作ること、また産業医や人事部などと「つながる」環境を作ってあげることも必要です。そして次に、治療をしながらでも仕事を続けられるための仕事の管理やサポートが大切、と説明しました。
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治療と仕事を両立できる環境づくりには、上司が部下との信頼関係をつくること、産業医や人事部門とつなぐことも重要
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治療頻度や内容を細かく聞かれ、泣きたい気持ちに
ワークショップでは、Johnson & Johnson Innovative Medicineが独自に開発した上司と部下の対話シミュレーションが行われました。参加者が2人1組に分かれ、上司と部下役になって模擬対話を行います。設定された場面は2つ。①不妊治療を始めた部下が、上司に仕事との両立について相談する場面と②がん治療のための入院から復職した部下が、上司に治療をしながらの働き方を相談する場面です。
不妊治療を始めたケースでは、部下に寄り添わない上司役の言動に、部下役の参加者からは「治療頻度や具体的な内容を細かく聞かれ、責められているような気持ちになった」「泣きそうになった」という声が上がりました。
その一方、部下の話を聞き、働きやすい環境を提案する上司役と対話した部下役の参加者からは「最初に全てを受容してくれて、気持ちが楽になった」、「チーム全体が働きやすい環境づくりを提案してくれた。自分が周りに負担をかけるわけではないと言ってくれて気持ちが楽になった」という声が上がりました。上司の対話の仕方で部下の感じ方に大きな違いがありました。
岡原は「上司も部下も職業人の前に1人の人間です。上司は評価者としてではなく、まず人間としてチームメンバーと向き合うことを大切にしてほしい」と強調しました。
職業人の前に1人の人間 向き合うことを大切に
がん治療のための入院から復職した部下のシミュレーションでも対話の進め方の大切さがクローズアップされました。
部下に寄り添わない上司役は、仕事の進ちょくや出勤日数ばかりを気にかけ、抗がん剤治療を続ける部下役が「頑張ります」としか言えない状況に知らず知らずのうちに追い込んでしまいました。一方で、部下との対話から新しい働き方を探ろうとする上司役は、リモートワークを組み合わせた勤務を自ら提案し、部下の体調を確認するための定期的な面談も設定しました。ただ気を付けなければならないのは、上司が無理しないようにと気を遣い、休むことを強く勧めることで、部下の働く意欲を却って低下させることもあるという点です。岡原は「休むのが正解か、働くことが正解か、究極的にはどちらが正解ということはありません。一方的に決めつけず、対話を重視することが大事です」と呼びかけました。
小島さん「制度、風土、態度の3つの視点が大事」 桜井さん「対話の積み重ねが『しなやかな会社』をつくる」自身の体験をもとにしたパネルディスカッション
ワークショップでは、エッセイストでタレント、東京大学大学院情報学環客員研究員などを務める小島慶子さんの講演と、パネルディスカッションも行われました。

小島慶子さん(エッセイスト/タレント/東京大学大学院情報学環客員研究員)
小島さんはテレビ局のアナウンサー時代、第2子の育休から復帰する直前に不安障がいを発症した自身の経験を紹介。当時の考え方や風潮もあり、職場の理解を得にくい状況の中で、ありのままを受け入れてくれる人がいて、とても救われたといいます。小島さんは、テレビ局の労働組合でワークライフバランスに関連した制度づくりを進めた経験をもとに、「働きやすい職場づくりには制度、風土、態度の3つの“ど”が大切」と講演しました。
またパネルディスカッションでは、がん患者さんの就労を支援する一般社団法人CSRプロジェクト代表理事の桜井なおみさん、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループバイスプレジデント ガバメントアフェアーズ&ポリシー 統括責任者の濱田いずみらも、それぞれの経験をもとに、治療も仕事も諦めないために何が必要かを語りました。

桜井なおみさん(一般社団法人CSRプロジェクト 代表理事)
桜井さん:30代でがんになった経験があります。経験から感じることとして、病気の方に話しかけるのは、腫物に触るような態度になってしまいがちです。私がお願いしたいのは、朝会った時に「おはよう」と声をかけてくださいということです。普段の日常の対話の積み重ねが、病気になったり、困難な事情があったりした時にもしなやかに対応できる〝強い会社〟になるのだと思います。
小島さん:少子高齢化が進み、労働人口が減る日本の中で、私たちはなかなか体が思い通りにならないことも多い中、仕事をしています。このことを前提とした制度設計が必要です。「制度、風土、態度」のどれか1つが欠けてもサステナブルな働き方はできないと思います。幸せに生きるウェルビーイングの視点で考える風土、日常会話や挨拶を大切にする親切な態度といったことが、どの会社でも当たり前になってほしいと願っています。
濱田:私自身、2022年末に体調を崩し、1週間後のニューヨーク出張をキャンセルした経験があります。重要なプロジェクトの担当でしたが、自分の状況を周囲に話した時に、まず「体のほうが大事だから、治療に専念してほしい」とサポートしていただけたことがありがたかったです。普段から職場の皆さんと信頼関係を築き「信頼貯金」を積み重ねていくことが大切だと考えています。
濱田いずみ(ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ
バイスプレジデント ガバメントアフェアーズ&ポリシー 統括責任者)
治療と仕事の両立支援においては、上司と部下の対話を通して新しい働き方を探り、それを周囲も支えるという社内カルチャーを醸成するとともに、持続可能な働き方をサポートする体制や制度を築くことが求められます。ジョンソン・エンド・ジョンソンは、こうした取り組みを社内外に広く発信していきます。
※1 2021年及び2005年 総務省労働力調査
※2 厚生労働省 国民生活基礎調査(2019年)
※3 厚生労働省 平成29年度「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」
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