Skip to content
Heart icon (animated) heart icon (static)
シェア
Well-being

人生100年時代 テクノロジーを活用した新しいビジョンケアとは

シェア

人生100年時代に向けて、目の健康寿命を延ばしウェルビーイング(心身ともに満たされた状態)をどう実現するか――。

テクノロジーの発展は、これまで難しいとされてきた治療法の可能性を広げました。そして、人生100年時代の今、病気を治すという医療だけではなく、豊かに生きる(ウェルビーイング)ための医療の取り組みが動き始めています。

網膜再生医療の第一人者や、デジタルを活用し患者さんのQOLを改善する医師、そして世界最高齢のプログラマーがビジョンケアとテクノロジーをどうウェルビーイングに活用できるかを語りました。


「同じ視力でも、心の持ち方で幸福度合いは異なる」

株式会社ビジョンケア代表取締役社長の髙橋政代医師は、網膜再生医療における世界的権威です。

目の疾患とそれに伴う治療も様々です。例えば角膜が濁った場合には角膜移植、水晶体が白く濁る白内障は手術で人工レンズを入れるなど治療方法があります。しかし、脳と同じ中枢神経の一部である網膜は一度失われると細胞は再生しません。

その限界に挑戦したのが髙橋先生です。髙橋先生は患者さん本人のiPS細胞で光を受ける視細胞を作って網膜の裏側に移植する網膜再生医療技術を開発しました。そして2014年、理化学研究所時代に世界で初めて移植手術を実現したのです。

expand

 
テクノロジーが進化した一方で、iPS細胞による再生治療でも正常に戻るまでの視機能回復には至らないケースもあると髙橋先生は話します。

「再生医療で全てが治ると思う患者さんも多いのですが、決してそうとは限りません。『一部しか見えるようになりません』と伝えるとものすごくがっかりされます。患者さんのためを思って研究してきましたが、残酷な希望を与えているような気がしました。これはいけないと思って作ったのが神戸アイセンターです」(髙橋先生)

患者さんが、できるだけ不自由のない生活を営めるよう、社会で活躍できるよう、しっかり支え、また、そのために世の中の意識やルールを変えるまでが「医療」ではないかー。そうした考えに基づき髙橋先生が中心になって設立された神戸アイセンター。医療的なケアから教育的、職業的、社会的、福祉的、心理的ケアまで、広い範囲にわたる支援を行っています。再生医療の研究施設、最先端の眼科医療施設、リハビリ・社会復帰支援施設を一つにした世界初の試みです。

 

expand

 
髙橋先生は「同程度の視力の人でも、その人自身の心の持ち方で幸福の度合いが異なります」と指摘します。

「テクノロジーの発展から「『よく見えていなければならない』『もとの状態に戻らなければならない』という気持ちに縛られている患者さんは少なくありません。このように思っている間は患者さんにとって一番つらい時期です。その状態から解放されて現在の病状を受け入れ、環境を自分に合わせて変化させる工夫をすると一気に新しいことや、できることが増えます」(髙橋先生)

 


「テクノロジーを処方し、希望を与え続けたい」

株式会社Studio Gift Hands 代表取締役の三宅琢医師は、視覚障がいやロービジョンの患者さんのウェルビーイング支援に取り組んでいます。ロービジョンとは何らかの原因により視覚に障害を受け「見えにくい」「まぶしい」「見える範囲が 狭くて歩きにくい」など日常生活での不自由さをきたしている状態を指します。*1

expand

 
三宅先生は、現在、スマートフォンやタブレット端末を使い、眼の疾患がある患者さんに「デジタルビジョンケア」を行い、就労や学習をサポートしています。

デジタルビジョンケアを始めたころ、視力が弱い人に向けて、本を読むためにアイパッドを置く台を作った三宅先生。結果は意外なものだったといいます。

「患者さんが喜ぶと思い、台を貸し出したところ本を読む用途としてではなく『爪切れるようになりました』『マニキュアがぬれるようになってデートに行けるようになりました』『箸の先端を拡大して見て食べています。ごはんがおいしくなりました』などの思わぬ報告がありました。本を読みたいのではと思い込んでいましたが、最初に何をしたいか聞くべきでした」と振り返りました。

全ての答えは患者さんにあるー、そう気づいた瞬間でした。
 

expand

写真提供:三宅琢先生

三宅先生はスマートフォンには視覚を助けるさまざまな機能があると話します。例えば『Seeing AI』という無料アプリは、スマートフォンのカメラに映る文字や色などの情報を認識して読み上げる機能があります。また、カメラで撮影した周囲の状況を認識して読み上げるので、眼の前で起こっていることを把握することもできます。スマートフォンのカメラが、視覚障がいがある人の「目」として生活をサポートしているのです。
 

expand

写真提供:三宅琢先生

 
三宅先生は「今テクノロジーはものすごい速度で進化を遂げています。医療の知識を持つ医者として、テクノロジーによる解決策を処方し、社会のニーズを満たしたいと考えました」と、現在の活動を開始したきっかけを話しました

 

「見えないとできないは違う」

三宅先生の活動の場の一つが神戸アイセンター病院内にある「ビジョンパーク」です。髙橋先生から相談を受け、三宅先生が中心となって2017年に開設しました。

 
視覚障がい者の施設というと、段差がないバリアフリーの施設を想像しがちですが、ここには段差がたくさんあります。

「施設の外に行けば、段差があります。私たちが目指しているのはキュアではなくケア、自立して自ら生活できるようになる施設にしたいと思いました」(三宅先生)

ビジョンパークは医療と福祉、教育、生活などを切れ目なくつなぐ空間で、誰でも利用できます。テクノロジーを使って患者さんが幸せになっていく場でもあり、iPhoneやiPadの学習会も定期的に開かれています。

「健康でなければ幸せになれないということはありません。テクノロジーを使えば生活やウェルビーイングの質を上げることができる。今後も患者さんに助言と希望を伝え続けたいと思っています」(三宅先生)


医学とテクノロジーで年齢の壁を超えた
expand

ウェルビーイングを体現しているのが、ITエバンジェリストで世界最高齢のプログラマーとして知られる若宮正子さんです。若宮さんは現在、87歳。50代でパソコンを始めて、プログラミングを学び、シニア向けのスマホアプリを開発しました。

さらに学びを重ね、活動の場を海外にも広げます。アジアや米国、欧州などで自身の活動を講演しています。米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)との面談や、国連でもスピーチ。2021年に発足したデジタル庁の有識者会議のメンバーなども務めました。

若宮さんはどんな人生を歩んできたのでしょうか。生まれた時は戦時下で、防空壕を掘った経験もあります。東京の高校を卒業後、金融機関に就職しました。当時使われていたそろばんやお札の手勘定は苦手だったといいます。

時代とともに職場で機械が導入されると、持ち前の好奇心で、活躍の場を広げました。コンピューターと出会ったのも好奇心からでした。「母の介護で、友人と会うことが難しくなった時もソーシャルコミュニティーで人とつながることで、孤独を感じませんでした」(若宮さん)

「私はインターネットから翼をもらったのです。私は高齢者へITリテラシーの大事さを知ってもらう活動を始めました。年相応の故障個所は増えてきてはいますが、現時点では毎日の活動に差し支えるほどではありません。10年前に白内障の手術をして眼内レンズを入れていただいたおかげで、このスライドを作成することも簡単にできました。医学とテクノロジーに助けてもらいながらこれからも活動を続けたいです」

記事はジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 ビジョンケア カンパニーが社内向けに開催した講演を再録しています。ビジョンケア カンパニーは、健康とウェルビーイングの向上のために、一人ひとりのニーズに寄り添うソリューション提供に向けたイノベーションを推進し、さまざまな世代の「見え方」をサポートしていきます。また、医療に関する内容は髙橋政代先生・三宅琢先生に監修いただきました。

*1 公益社団法人 日本眼科医会

関連コンテンツ

Back to top