6月は白内障啓発月間です。白内障は加齢に伴い増加する疾患で、日本では年間100万件以上の手術が行われています。一方で視界がぼやけたり、かすんで見えたりする白内障の症状を「年だからしょうがない」とあきらめ、受診が遅れるケースもあります。生活の質の改善につなげるためにも早期に眼科を受診することが大切です。自分や家族、大切な人の目の健康について考えてみませんか。
白内障は水晶体が濁り、見えにくくなる疾患
白内障とは、目の水晶体の濁りにより、光が通りづらくなり見えにくくなる病気です。水晶体をレンズに、網膜をスクリーンとして考えてみましょう。正常な眼では、水晶体(レンズ)を通った光が網膜(スクリーン)に焦点を結びます。収しかし、水晶体が濁ってしまうと、光をうまく通すことができず、スクリーンの役割の網膜に見ているものをきれいに映すことができなくなります。これが白内障です。



白内障はどんな症状なのでしょうか。物を見る時にぼやけたり、かすんだりします。加齢にも関係していて、40代から徐々に白内障に罹患する人が増え始め、80代以上ではほぼ100%の人が加齢性の白内障に罹患しています。
加齢性白内障の人数

高齢者だけの疾患ではない 20代でかかるケースも
一方で、白内障は高齢者だけの疾患ではありません。白内障の手術を行ってきた、宮町眼科クリニック(東京)のスミス朱美医師は「高齢者の疾患というイメージがあるかもしれませんが、糖尿病などの基礎疾患がある場合、20代など若い年代でかかるケースもあります」と説明します。このほか紫外線や喫煙、強度近視、副腎皮質ステロイドや向精神薬といった薬物も白内障を引き起こす原因になると指摘されています。
暗い場所で見えにくい、光がまぶしく感じる… 眼科受診のサイン
どんなタイミングで眼科を受診したらよいのでしょうか。白内障は時間をかけて徐々に進行することが多く、自覚のないまま生活している人もいます。
スミス医師は、光にまぶしさを感じたり、メガネの度数が変わったり、暗いところで物が見えにくいといった症状があれば、眼科を受診することを勧めます。このような症状があっても「年をとってきたからしょうがない」と、眼科を受診しない人もいるため、注意が必要です。
スミス医師は「早い時期に眼科を受診することで、治療方法を調べたり、色々な専門家の意見を聞いたりして情報収集することができます。生活の質の改善のためには、定期的に眼科検診を受けることはとても大切です」と説明します。
治療法は?選択肢広がる眼内レンズ


現在、白内障の治療法は点眼薬による治療か、手術の選択肢がありますが、日常生活に支障が出ている場合は白内障手術を受けることが一般的です。白内障手術は濁った水晶体を取り除き、水晶体の代わりとして眼内レンズを挿入します。
眼内レンズの種類には単焦点レンズと多焦点レンズがあり、それぞれにメリット、デメリットがあります。
単焦点レンズは保険診療が適用されますが、遠方など1カ所にしかピントを合わせることができず、一般的には眼鏡が必要です。一方、多焦点レンズは遠方も近距離も複数の距離にピントを合わせることができます。さまざまな種類が開発されていて、患者さんが希望する見え方に合わせて選択の幅が広がっています。また、多焦点レンズは、単焦点レンズに比べて高額ですが、2020年から厚生労働省が定める選定医療の対象になり、以前より費用が抑えられ、選択しやすくなりました。
見え方の改善だけではなく、社会的つながりの回復も期待

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人生100年時代、目の不調を「年のせい」で片づけずに、早い時期の眼科受診、そして適切な治療で生活の質を改善していくことが重要
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白内障を治療することは、視覚が改善するだけではありません。社会的なつながりの回復、情緒の落ち着き、運動能力低下の抑止となることが期待されます。
スミス医師は、過去に白内障の手術を受けた患者さんから贈られた、あるものを大切に持っています。その患者さんは、絵を描くことが大好きな90代の女性でした。でも、白内障の症状が進むにつれて描くことが難しくなっていました。手術を受け、再び絵を描くことができるようになったお礼にと、美しい花をペイントした手鏡をスミス医師にプレゼントしてくれたのです。
他の患者さんからも「景色がこれほど明るいとは思いませんでした」などと生活の質(QOL)が改善したという声が寄せられています。
白内障は、本人だけではなく、家族や周囲が白内障を正しく理解することで、早期受診につなげることができます。人生100年時代、目の不調を「年のせい」で片づけずに、適切な治療を受けて健康な生活を送りましょう。


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