白内障治療の眼内レンズにはさまざまな種類がある
白内障によって日常生活に支障がある場合の治療法は手術になります。
手術は、白く濁った水晶体を吸引除去し、その代わりになる人工の「眼内レンズ」を挿入します。この眼内レンズには種類があり、1ヵ所にピントを合わせる「単焦点眼内レンズ」と、複数の距離にピントを合わせる「多焦点眼内レンズ」に分けられます。
「単焦点眼内レンズ」の手術には保険が適用され、遠方や近方など一か所にピントを合わせる構造です。遠方にピントが合うレンズを入れた場合、読書や裁縫など手元を見るときには眼鏡が必要になります。
眼内レンズの種類

技術革新が進む「多焦点眼内レンズ」とは?
「多焦点眼内レンズ」とは、文字通り複数の距離に焦点(ピント)が合うレンズです。
「多焦点眼内レンズとして最初に開発されたのが2焦点眼内レンズです。遠くと近くが見えるので、術後に多くの方は老眼鏡の必要性がなくなりました。 近年、レンズは進化をし続けていて、焦点の合う距離を増した3焦点や連続焦点のレンズも登場しました。これで遠くから近くまで連続して見えるようになりました。
現在、光の回析現象を利用して光を振り分け、遠くから近方40センチメートルぐらいまで見やすいタイプと、遠方から中間まで見やすい焦点深度拡張型と呼ばれるタイプの2種類に大きく分けられます。
多焦点眼内レンズは、どの距離でもよく見える魔法のレンズではありません。レンズの焦点が合う距離より手前が見えにくい場合は、老眼鏡を使えば見やすくなります。
回折現象を利用したレンズでは、夜間に照明を見たときに光がまぶしく見えたり(グレア)、光のまわりに何重もの輪が見えたりする(ハロー)光視症が出る可能性がありますが、最近では不快な光視症がほぼないタイプも出てきました。」
単焦点眼内レンズと比べると費用は高額ですが、2020年から厚生労働省が定める選定療養の対象になり、手術費の一部が保険適応になるため、以前より費用が抑えられて選びやすくなっています。
眼鏡に頼らない生活を希望する患者さん向き
複数の距離にピントが合う多焦点眼内レンズは、どんなライフスタイルに向いているのでしょうか。
「できるだけ眼鏡に頼らない生活を希望する患者さんに向いています。スポーツや旅行をする、美術館やコンサートに行くといった外出が多いライフスタイルの方は、毎回老眼鏡を忘れていないか心配する必要がなくなります。
このほか、遠くや近くを交互に見る必要がある教師や講師、営業職、接客業で働く人や、眼鏡のレンズが曇りやすい環境で働く人にも向いています。」
ライフスタイルに合ったレンズ選びが大切
「多焦点眼内レンズ」にはいろいろな種類があり、レンズごとに特徴が違います。それぞれの特徴を理解したうえで、ライフスタイルに合った眼内レンズを医師やご家族と相談しましょう。

※一般的な情報に基づいた表であり、それぞれの条件により異なる可能性があります
多焦点眼内レンズ

「眼鏡をかけずに見たいもの」を伝えるとレンズ選びがスムーズに
患者さんが多焦点眼内レンズの手術について医師に相談するときには、どのようなポイントを確認するとよいのでしょうか。
「ご自身が生活の中で、眼鏡をかけずに見たいものを考えていただくとレンズ選びがスムーズです。期待している近くの見え方がどの程度実現可能かも医師に聞いてみましょう。また、もしチェックできるのなら、事前に夜の街灯の見え方を確認してください。診察でもグレア・ハローの写真や動画を見ていただきますが、夜間の見え方がイメージできます」
「眼鏡が必要ない生活を送れるなんて想像もしませんでした」 患者さんの声
実際に「多焦点眼内レンズ」を入れた患者さんの声を、ビッセン宮島先生に聞きました。
「近視が強く、眼鏡やコンタクトレンズをしないと人の顔もはっきり見えませんでした。手術後は、朝起きてすぐ壁の時計の文字が読めるようになり、コンタクトレンズをはずすのを忘れて寝てしまったのかと思うほどです。眼鏡が必要ない生活を送れるなんて想像もしませんでした」
「眼鏡のない生活は若いころのようです。今までやれなかったことを積極的にやりたいという気持ちになっています。第二の人生を楽しみます」
「老眼鏡をいつも忘れてしまうので、リビング、ダイニング、外出用といくつも老眼鏡をつくっていました。いまは老眼鏡が必要なくなりました」
「外出や旅行では眼鏡を忘れないかが心配でした。眼鏡を持ち運ぶ必要がなくなり、もっといろいろな所へ行きたい気持ちになっています」
手術後の見え方を事前体験できるアプリも
患者さんが納得して手術を受けることができるように、術後の見え方を事前に体験できるアプリもあります。ジョンソン・エンド・ジョンソンは、実生活における白内障の術前・術後の見え方を体験できる無料アプリ「AR Eye」を開発しました。ビッセン宮島弘子先生が監修したもので、術後の視覚体験をシミュレーションし、ハロー・グレアの可能性についても理解を深めることができます。患者さんのみならず、ご家族の方もこのアプリを利用することで、白内障の理解を深めることができます。
視力が回復することで、活動の幅が広がり、豊かな生活のきっかけになります。医療が発達して人生100年時代と言われるいま、年齢を重ねてもアクティブに活動する人たちが増えています。
「多焦点眼内レンズを入れる患者さんの年代はさまざまです。見え方の改善により、患者さんがポジティブな気持ちで新しいことに挑戦する意欲が高まり、生活の質(QOL)が向上して快適な生活を送ることが大切です。実は私の夫も多焦点眼内レンズを入れていますが、『人生で最高の贈り物』と言われました」
お話をお伺いした先生

東京歯科大学水道橋病院 名誉教授・特任教授 ビッセン宮島弘子先生
慶應義塾大学医学部卒業。2003年より東京歯科大学水道橋病院 教授、2022年より現職。白内障、屈折矯正手術分野の日本のパイオニアとして海外からの技術をいち早く導入し、世界トップレベルの白内障手術を提供している。
※1 Minds 白内障診療ガイドラインの策定に関する研究(H13-21EBM-012)
※2 厚生労働省「第8回NBDオープンデータ」
2025PP10636