目は朝から夕方まで紫外線を浴びている
「皮膚に比べて、目は朝から夕方まで1年を通して紫外線を浴びています」。佐々木教授はこう説明します。欧米人に比べて顔の彫の浅い日本人は、目に紫外線を浴びやすい傾向もあります。
紫外線による目の疾患は、急性障害と慢性障害に分けられます。季節や地域によって異なりますが、春の雪山でのスキーや、学校の部活動などで一日中屋外にいた時など強い紫外線を短時間浴びると目が充血します。これが急性障害です。急性の場合は時間の経過とともに治ります。一方、繰り返し強い紫外線を浴びると、慢性的な障害になります。
失明原因で世界トップの白内障も紫外線が影響
紫外線による目の病気や影響にはどのようなものがあるのでしょうか。佐々木教授によると、慢性障害は主に4つで、瞼裂斑(けんれつはん)、翼状片(よくじょうへん)、白内障、そのほかの症状として老眼があります。

「瞼裂斑は、白目の上に黄色い斑点や隆起ができる疾患です。隆起している部分の涙がはじけ、ドライアイになったり、炎症を起こしたりすることもあります。紫外線が発症のリスクを高めます」(佐々木教授)
紫外線は赤道に近いほど強く、佐々木教授が石川県在住の日本人と、アフリカの赤道部に位置するタンザニアの小中学生、高校生を対象に行った調査では、初期の瞼裂斑の有病率はタンザニア人が著しく高いことが分かりました。
より強い紫外線を浴びた時に発症するのが、翼状片です。白目が黒目を覆うように伸びてきます。異物感や、角膜の表面に凹凸が生じて正常に像が結ばれない「不正乱視」になるケースがあり、手術が必要になります。
失明原因で世界トップ*1の白内障も紫外線の影響を受けます。白内障は、目の水晶体*2の濁りにより、光が通りづらくなり見えにくくなる病気です。紫外線は目のレンズの役割をする水晶体に障害を生じ、水晶体を構成するタンパク質が濁る原因になります。
佐々木教授は熱中症と白内障との関係についても研究しています。熱中症にかかっていない人に比べて5年後に白内障を発症するリスクが4倍にも高まることが分かっています*3。
また、紫外線によって老眼を自覚する年齢が早まる可能性も示唆されています。ジョンソン・エンド・ジョンソンのビジョンケアカンパニーが2016年、30~60代の男女832人に行ったアンケートでは、紫外線を浴びた量が多いと自覚している人たちのほうが、少ない人より、老眼を自覚するタイミングが周囲に比べ「早かった」「やや早かった」と、より多く回答しました。
複数アイテムによる紫外線対策が効果的
目の紫外線対策にはどのようなものがあるのでしょうか。
佐々木教授は毎日の紫外線対策として下記のポイントを挙げます。
- つばの広い帽子や、紫外線をカットするサングラス、UVカットコンタクトレンズ、メガネを使用する。
- UVカットコンタクトレンズは、素材に紫外線吸収剤が含まれているため、紫外線をカットできる。黒目全体と白目の一部を覆うコンタクトレンズは、角膜と角膜に隣接する結膜への紫外線の透過を低減する。
角膜・隣接する結膜のイメージ図

- 麦わら帽子のように、帽子のつばの幅が7センチ以上だと紫外線カット効果が高い。カット率は20~70%ほど。
- サングラスはレンズの色が濃すぎると、瞳孔が開き水晶体まで紫外線が入りやすくなるので注意する。ゴーグル型のような、レンズと顔の隙間から紫外線が入り込まないようなタイプが良い。
- 帽子+UVカットコンタクトレンズ、帽子+メガネなど、複数の紫外線対策グッズを組み合わせるとより効果がある。

サングラス(メガネ):目を守るなら、まずはサングラス(メガネ)。ただしそれだけでは、レンズ側面から紫外線が入り込み、目にダメージを与える「コロネオ現象*4」が発生するという盲点が。色の濃いレンズは視界が暗くなることで瞳孔が開き、目に紫外線が入りやすくなる可能性もあるので要注意。
UVカットコンタクトレンズ:サングラス(メガネ)の隙間から入る紫外線が、目に吸収されるのをブロック。「コロネオ現象*4」を防ぐためには、サングラス(メガネ)だけでなく、UVカットコンタクトレンズの併用が効果的。
帽子:さらに帽子も重要アイテム。目のことを考えると、麦わら帽子やチューリップハットのような目の前に影をつくることができるものがおススメ。
紫外線が目に与える影響を正しく理解し、予防策をとることで、リスクは低減できます。
人は情報の8割*5を視覚から取り入れるとも言われています。紫外線が強くなる季節に向けて、対策をとることが大切です。
気象庁によると、日本の夏(6~8月)の平均気温は、さまざまな変動を繰り返しながら上昇しています*6。熱中症による救急搬送件数も増加傾向です。
国内外で紫外線と白内障の研究を続けてきた佐々木教授は、紫外線だけではなく熱との関係に着目しました。
熱中症と白内障の大規模な調査を行い、熱中症の罹患により白内障の発症を早めるリスクが4倍になることを明らかにしました。2016年1月から2023年2月まで255万8000人分の診察データを分析したところ、熱中症にかかった人はそうではない人に比べ、5年後に白内障の発症リスクが高まるという結果が出たのです。年齢別では、20代からリスクが上昇し始め、60代では5倍近くになっていました*3。
「熱中症の程度にもよりますが、重症の場合は眼内の温度は上昇すると40度を超えることもあります。今後、メカニズムについてより細かく調べることを予定しています」(佐々木教授)
お話をお伺いした先生

金沢医科大学眼科学講座 主任教授 佐々木 洋 先生
金沢大学を卒業後、1987年に医師免許取得。自治医科大学・米国オークランド大学眼研究所を経て、1996年に金沢医科大学眼科へ移籍し、2005年に同科教授に就任。国内外で紫外線関連眼疾患の疫学調査を行い、白内障の臨床、疫学、基礎研究において日本をリードする医師。これまで4万件以上の白内障手術を行っている。
*1 日本では医療が進んでいるため、緑内障、網膜色素変性、糖尿病網膜症が主な原因
*2 水晶体とは:眼の中にあるピントを調節するためのレンズで、カメラでいうレンズにあたる部分
*3 名古屋工業大学および金沢医科大学眼科学講座、2016年1月~2023年2月調査、255万8000人分の診察データ分析による
*4 コロネオ現象とは:目の側面から入り込んだ紫外線が角膜周辺部で屈折した後、目の鼻側に集中することをいう
*5 https://www.nichigan.or.jp/intern/summary/feature/importance.html
*6 https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/sum_jpn.html
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